2013年4月29日月曜日

タイタンの妖女


 カート・ヴォネガットが気合いを入れて取り組んだと思しき作品。村上春樹やradioheadの世界観の源流にあるのはこういう感性らしい。風刺が効いてて、ユーモラスで、時には残酷にさえ映る冷淡。幻想的で、不条理で、作者の明確な意図は示されず、読む者が意味を考える。

 火星への航行中に時間等曲率漏斗(クロノ・シンクラスティック・インファンディブラム)に飛び込み、太陽系のあらゆる時空間に遍在する存在になってしまったウインストン・ナイルズ・ラムファード。美貌と強運を持って生まれた俗物である全米一の大富豪マラカイ・コンスタント。彼らは運命に翻弄され、舞台は地球のラムファード邸から火星、水星、土星へと移動していく。

 読んでいて小説って自由なんだと思い知らされる。読者を突き放し、展開は思わぬ方向に進み、訳も分からぬまま宇宙の中を引っ張り回される。物語の意味を作者は一言では教えてくれない。困惑したまま読み進み、最後の解説まで読んで、頭の中で反芻して、ようやく意味が分かる。より大きなものに人は操られている、という運命に対する諦観の書である。
   

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