2019年12月31日火曜日

narrative of the year 2019

1位 三体
 噂に違わぬクオリティで、読み始めると没頭してしまった。エンタメ業界にも及ぶ中国の底力を思い知った。三部作なので続きが楽しみ。

 今年は高城剛に出会った年だった。自分がなんとなく思い描いていた理想を実践している人間に出会えた感がある。

3位 息吹
 これからの時代に生きる我々に必要な物語だろう。テクノロジーが変える人間の認識を、透徹した知性が予見する。
 
4位 日本国紀
 日本人なら一家に一冊。アンチのネガティブキャンペーンの凄まじさが、この本の効用を雄弁に語っている。

 己が読書への情熱をたぎらせる一冊。こういう熱いのが好き。

6位 バーフバリ
 最近の若いもんに足りない要素の全てが詰まっている。

 未来を予見するためにもっと勉強したくなった。考えるって楽しい。

 娯楽作品として完成度の半端なさよ。

 上に同じ。

 子供受けが良く、テーマもいい。
   

2019年12月29日日曜日

息吹


 寡作のSF作家テッド・チャン、待望の新作短編集。原作の英語版は2019年5月、邦訳は同年12月発売。

 デビュー作を含む前の短編集『あなたの人生の物語』からなんと17年ぶりとなる刊行。特定の題材に対し、徹底的に考え抜く思弁と、娯楽作品としての物語性が同居する作品群が続く。以下、順に感想。

『商人と錬金術師の門』
 アラビアンナイトの世界を模した文体で書かれるが、内容はキップ・ソーンのワームホール理論に基づく時間SF。私はこれが一番のお気に入りで、SF初心者にもとっつきやすいと思う。映画でよく観るタイムパラドックス(バック・トゥ・ザ・フューチャーとか)に納得いかない人が読めば新たな洞察を得られるだろう。

『息吹』
 人と異なる構造を持つ生命体の思弁を追う異世界SF。儚く美しい。

『予期される未来』
 未来予知がヒトにもたらすものは何か、を問うことが多いチャン作品の珍しい回答例。

『ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル』
 人がAIを育てる話。これからの人類が直面する課題を先取っている感がある。今後、AIの人格面や尊厳を扱う物語作品としての古典となるだろう。これもお気に入り。

『デイシー式全自動ナニー』
 機械による子育ての話。ハリー・ハーロウが猿を使ってやった実験を思い出す。サクッと読める。

『偽りのない事実、偽りのない気持ち』
 新たなテクノロジーの出現が人間全体の価値観や精神構造に影響を及ぼす、という話。グレッグ・イーガン的な材。
 
「大いなる沈黙」
 純文学寄り。雰囲気は好きだが、あまり残るものはなかった。

「オムファロス」
 とっつきやすそうで難しい。読後に解説を読んでようやくテーマを理解。玄人受けするハードSFだろう。いつかまた読むかな。

「不安は自由のめまい」
 量子力学が生んだ多世界解釈に関する話。人間の振る舞いが確率論的なものであるとしたら、人物に固有の人間性とはなんなのか。


 読む面白さも格別だが、本書が提供する視座は、単なる読書以上の恩恵を読者に与えるだろう。テクノロジーが現実世界のみならず人類の認識をも根本的に変えてゆく時代に必要なのは、良質なフィクションを通した思考の訓練である。まずは職場での布教を図っていきたい。
   

2019年12月20日金曜日

池袋ウエストゲートパーク(テレビドラマ)


 石田衣良の小説が原作のテレビドラマを鑑賞。2000年作品。全11話。

 90年代後半頃の東京の猥雑とした空気が全編に溢れる。小汚いファッションに身を包んだ若者たちはセックスと暴力に関するハードルが低い。見る人が見れば、「このあと20年くらい日本が失われるぞ!」と予見できたであろう、退廃的なストリートの文化が散りばめられている。

 そんな世界で、果物屋のせがれである真島マコト(長瀬智也)が街で起こった事件に巻き込まれ、解決のために駆け回る、というのが全体の筋。カラーギャング、性風俗産業、ヤクザなどの入り口を通じて、アンダーグラウンドな世界と一般社会とを行き来しながら真相に近づいていく。都市という世界における、地上と地下の狭間にある特異点。それがマコトのポジションであり、狂言回し兼主人公として物語が成立するという構造となっている。

 シリアスな展開でも遊び心が随所に込められ、シュールで下品な笑いの要素を入れてくるあたりがクドカン節。役者も豪華で、窪塚洋介(キング)、渡辺謙(横山署長)、小雪(カナ)あたりはオーラが全開。警官の阿部サダヲもいい味を出している。雑多な情報が配置され、コマ送りなどエキセントリックな映像手法のアクセントも効いて、独特の調和が生まれ心地よい。棒読みなセリフの役者や90年代特有の泣かせの演出がちょくちょく気になるが、それはそれで当時の日本の文化水準を象徴している。

 原作とはまた違った世界を作り上げた名作だと思う。観た人同士でいくらでも語り合いたくなる。時代を代表する、猥雑な娯楽作品。