2021年12月31日金曜日

narrative of the year 2021

1位 進撃の巨人(漫画、アニメ)
今年一番熱中した物語作品。豊穣で示唆に富む展開や設定が良かった。原作のラストをしっかり締めてくれたのがありがたい。

2位 吉原御免状(小説)
娯楽小説としての価値とともに、被差別民の歴史が背景にあるのが良い。隆慶一郎作品をもっと読みたい。

3位 オッドタクシー(アニメ)
コンパクトに観ることができるミステリー。オシャレ感もあり全体の調和が良い。

4位 三体 Ⅲ 死神永生(小説)
正直、最高傑作はだと思うが、これはこれで傑作。

5位 アクティベイター(小説)
程よいボリュームと濃度だった。現代が舞台の冲方丁作品をもっと読みたい。

6位 命がけの証言(漫画)
出版の価値であれば今年No.1。目を逸らさず、1人でも多くの人に実態を知って欲しい。

7位 チェンソーマン(漫画)
アニメ公開決定済み。2022年はチェンソーマンの年になるだろう。

8位 ゴールデンカムイ(漫画)
北海道への経済効果は計り知れず。何度も読み込む価値がある。

疲れた頭に優しい漫画だった。

10位 渋江抽斎(史伝)
重厚で硬質な文章の味わい。
  

2021年12月30日木曜日

ゴールデンカムイ


 大正時代の北海道を舞台に冒険する漫画。既刊28巻。
 まわりに奨められて夏頃から読んでいた。

 日露戦争の帰還兵の杉本佐一は、北海道で砂金採掘をしている途中で、あるアイヌの男が大量の黄金を隠したという噂を聞く。網走監獄にいた「のっぺらぼう」という男が、黄金の在処を示す暗号として、囚人に刺青を掘ったという。杉本は隠された黄金を求める中で、アイヌ、帝国陸軍などの戦力が入り乱れ、北海道を舞台とする激しい戦いに巻き込まれていく。

 暗号解読を目指し、財宝を巡り幾つもの勢力が争いを繰り広げるという筋は、娯楽作品としては定番だが(思い浮かんだのは『クリプトノミコン』)、本作ではいくつもの独特のエッセンスが加わる。日露戦争前後の日本および北海道の歴史、自然描写、アイヌの民俗文化やグルメ、猟奇犯罪が組み合わさっていく。内容は重いようで、けっこうキツめの下ネタや、悪ノリが過ぎるおふざけが箸休めになる。

 『鬼滅の刃』なんかもそうだが、徹底した時代考証および文化風俗の交渉、キャラクターの背景の作り込みをしてから、長編の物語を書くのが最近のトレンドなのか。後半明らかになる、物語の伏線や、仕込みにも唸らされる。精緻に準備された舞台の上で、交錯する登場人物たちのドラマが際立つ。敵も味方も魅力的な人物が多いが、個人的に推すのは、優しそうな風貌でいて、実は最も冷徹でイカれてるウイルク。

 現在ヤングジャンプで連載中の物語も佳境で、2022年末頃には終わりそうだ。最後まで読むのが楽しみな漫画である。この時代に生きられる幸せを感じる。
 

2021年12月29日水曜日

ポリス・ストーリー/香港国際警察


ジャッキー・チェンの代表作の一つ。1985年作品。

1980年代の香港を舞台に、主人公のジャッキー・チェン扮する刑事が麻薬組織のボスを捕まえるために奮闘する話である。派手なアクションの大捕物、恋人や敵方の女との微妙な関係、仲間の裏切りや友情、などが含まれる。コメディ・色恋・身体能力・勧善懲悪を楽しめるザ・娯楽映画という風情である。

内容については、全体に粗雑な時代だったんだなあ、と感慨。性に関しても、人を侮辱する笑いに関しても、コンプライアンス的な縛りをほとんど感じさせず、良くも悪くも下品でおおらかである。1980年代は世界的にそんな雰囲気だったんだろう。危険を顧みず撮った派手なアクションは見応え抜群ではある。撮影中に大怪我が多発したのは確実だと思われるが、今だったら許容されるのだろうか。

古き良き香港映画の様式美を楽しめる、王道的映画であろうと思う。1980年代の時代の空気、香港の空気が保存されていることにも価値がある。深く考えずに観たが、思いのほか得るものは多かった。
   

2021年12月27日月曜日

司法試験予備試験 完全攻略本


 LEC東京リーガルマインドより出版。同社講師の柴田 孝之が著者。
 2014年(平成26年)発行。

 諸事情により司法試験に挑むことにしたので、その戦略策定にあたり、1冊で全体像が把握できそうな本書の電子書籍版をジャケ買い(タイトルで選んで購入)した。

 内容は期待通り。500ページ超とボリュームが多いが、概ね必要十分で満足できた。大学の法学部もロースクールも関係のない素人が、予備試験ルートで司法試験合格に挑むまでのイメージが掴める。前半は試験制度の解説、法律学習の概要、学習のコツと注意点と来て、ラストに旧司法試験と予備試験ルートの新司法試験の2人分の合格体験記がついている。これを一冊読めば、司法試験の戦いに挑むための準備は整った、という気分にさせてくれるだろう。実際、特に質の悪い部分は思いつかない。著者の(予備校講師然とした)軽妙な語り口が人を選ぶくらいだろうか。

 司法試験の受験は物語である。厳しい試験であり、多くの人が人生を賭けて挑み、様々なドラマが生まれる。本書は単なる資格受験の指南書のようでありながら、描かれなかった膨大な数の人々の辛苦が宿り、威厳を与えるように思う。読んで身が引き締まるとともに、自分の頭脳ひとつで人生を変えようという、大学の医学部受験に似た情熱を思い起こさせた。

 いつかどこかで語るかもしれないが、10年間このブログを書き続けたのは、司法試験に挑むための下準備だったような気がしている。試験勉強の日常や所感を記録する別のブログを始めたので、興味がある読者はそちらを参照されたい(リンク)。