2019年5月27日月曜日

実行力 結果を出す「仕組み」の作りかた


 橋下徹の組織マネジメント論。2019年5月刊行。

 組織のリーダー論であると同時に、政治家・橋下徹の物語でもある。2008年に38歳の若さで大阪府知事となり、その後、2011年に42歳で大阪市長に転身。政治家や役所組織の経験はなく、完全にアウェーな状況下で巨大組織(大阪府庁は10000人、大阪市役所は38000人)の長となった彼は、いかにして結果を出していったか。その経験を振り返って抽出した方法論である。

 平易な言葉で語られ、コンパクトなボリュームにまとめられているが、その戦いの凄まじさが随所から感じられる。膨大で難解な情報に日々晒され、凄まじい圧力が全方向からかかる中で、立ち止まることなく難しい決断を下していく、その心のありようと知的鍛錬の方法については、本当に勉強になる。医師としてもプラスになるが、いかなる業種の人であっても得るところがあろうだろう。

 彼には再び政治家になって、日本を救ってほしい。この本に書いてある内容を実行できる度胸、胆力、知性のある人間が、どれだけ稀有であることか。
   
   

2019年5月18日土曜日

おいしいロシア


 ロシア人の夫と結婚してサンクトベテルブルグで生活した女性の漫画エッセイ。

 日本人目線のロシアの日常風景が淡白に描かれる。食べ物の話題多し。それ以外に特記すべき特徴がないのだが、その欲のない普通っぽさが一貫して続くことで、本書の価値を高めているように思う。文章だけのエッセイじゃ伝わらない、旅行のガイドブックじゃわからない、ロシアの生活の肌感覚が伝わってくる。

 ロシアでの生活をイメージするための教材として、最良の一冊であると思う。行くことがあればまた読みたい。
     
     

2019年5月16日木曜日

映画クレヨンしんちゃん 爆盛!カンフーボーイズ ~拉麺大乱~


 同じく26作目。2018年作品。

 これは久々のヒット。テーマも雰囲気も良い。往年のカンフー映画の空気をふんだんに取り込み、おバカなクレしん映画をやりつつも、正義とは何かを深く問うている。マサオくんに焦点を当てているという新規性も良い。凡庸であることへの哲学的な思弁と、人間賛歌がほどよいさじ加減で込められている。

 笑って、考え、鑑賞後感も心地よい。ラストの展開は個人的にはシリーズ屈指。トータルでは6位くらいか。
    

映画クレヨンしんちゃん 襲来!! 宇宙人シリリ


 Amazonのプライムで観た久しぶりのクレしん映画。25作目。2017年作品。

 野原家に宇宙船が不時着し、そこに乗っていた宇宙人の子供としんのすけ一行の逃避行。少年の成長、父と子の関係性、などの要素を込めつつ、基本はエンターテイメント。説教じみた思想的な要素の少なめな作品であろうと思う。異文化の衝突という内容から予想されるお約束な展開は、特に裏切られることはない。

 年々制約がきつくなる中で、精一杯の下品さを表現するよう頑張っているなあ、というのがリアルな感想。「ケツだけ星人」はもう言っちゃいけないワードらしい。勿論、「象さん」の露出もなしだ。そのへんの製作陣の苦労が観ていて目に浮かぶ。

 私的ランキングでは13位くらい。悪くはないが、特段、惹かれることもない。
   

2019年5月10日金曜日

21世紀の(匿名)ハローワーク


 高城剛が政治家秘書、美容外科医、教頭、Airbnbホスト、FXトレーダー、小児科医の6つの職種の人物に取材し、匿名インタビューで業界の実情や本音を語ってもらうという企画本。副題は「人には理解されないもうひとつの職業図鑑」2018年5月に電子ブックで刊行。

 高城剛はきっとこういうことを延々と行なっているんだろうな、という内容で、インターネットじゃ掴めない業界の内部の空気や感性に触れることができる。このシリーズだけで無限に続編が刊行できそうだ。宮内庁職員、税理士、コカインの売人、蕎麦農家、占い師、アパレル店員、とか。自分の専門分野を持つとともに、こういうインスピレーションを得るための軽い出会いが大事なんだと思う。生産性を保つために。
  

2019年5月6日月曜日

今こそ、韓国に謝ろう そして、「さらば」と言おう


 特定勢力に「極右作家」のレッテルを貼られて生きる百田尚樹が韓国と日本の歴史、特に西暦1910年(明治43年)からの35年にわたる日韓併合にまつわる史実を語る本である。その内容はまぎれもない韓国に対するヘイト本である…が、ヘイトな成分をできる限り排除し、低姿勢な語り口で歴史的事実を淡々と列挙するスタイルをとっており、結果として皮肉の効いた風刺本になっている。

 はっきり言ってしまうと、読めば笑える日本人が多いだろう。しかし、大きい声で「この本を読んだ」と言えば面倒くさい人に目をつけられるだろうし、「面白かった」とTwitterで評したら炎上は必至だろう。そのあたり、このような手法をとって歴史的事実を訴えなければならない切迫した日本国内の言論界の状況を感じるべきである。過去数十年にわたり韓国が日本に続ける賠償金の要求(たかり)、剽窃(パクリ)、被害の捏造(でっちあげ)などの所業について、その実態を知れば知るほどに、陰性の感情(ヘイト)を抱くなと言う方が無茶な話ではあるが、現在の日本では表立って本音を口にすると社会的に損失を被るため、怖くて誰も口に出せない状況になっている。そんな本音とポリティカルコレクトネス的な諸問題を全体的にうまく処理すると、このようなスタイルになったと考えられる(攻めすぎではあるが)。

 誤解を避けるために付記すると、韓国人の中にも賢明で感じの良い人は沢山いるし、日本人の中にも軽蔑すべき人間は沢山いる。私個人は人種で差別するつもりはない。だが、国家レベルであれ、個人レベルであれ、嫌な相手の嫌な部分の仕組みは理解しておいた方が、現実的な被害をおさえるためには有効であろう。だから韓国という国家や韓国籍の人間の行動原理に不可解さを感じた人には、この本を勧める。説明が腑に落ち、氷解する疑問もあるだろう。