2019年1月7日月曜日

麒麟児


 冲方丁の新刊。勝海舟が主人公で、幕末の江戸城無血開城を巡る攻防を描く。

 これは交渉人の物語である。歴史に名を残す幕末の傑物、勝海舟がどのように優れていたのかを現代人が理解するのはやや難しい。蘭学の習得や米国への遊学で得た国際的な視点、広い学識と先見性、実用性重視と現実主義の思考、強い胆力と気骨、柔軟さや器用さ、そうしたものが同居した稀有な人物であったようである。現代に残る史実や言動の記録から彼の心情を再構築し、現代にも通じる読みやすさと娯楽性を持った物語に冲方丁が編み直した作品となっている。べらんめえ調の江戸弁で思考する勝海舟から見た国の危急存亡と、彼にしかできない命を懸けた戦い。

 構成の潔さ、洗練された登場人物の造形と掛け合いが読んでいて楽しい。山岡鉄太郎、益満休之助、西郷隆盛、大久保一翁、徳川慶喜…など、所作に滲み出る人間性の描きわけが巧い。一手間違えれば内乱が勃発し、西欧諸国の侵略を受け国が滅ぶという極限状況の中での交渉が、焼け付くような焦燥と緊張感の中で進んでいく、その過程を共有できる。

 勝海舟についてはwikipediaも読んだが圧巻の人生だ。こういう、人間の生の限界に挑戦するような生き方に憧れる。
   

2019年1月3日木曜日

日本国紀


 年末年始に読了。百田尚樹が書いた日本国通史。

 年末年始の読書用にいくつか本を買い込んだ際になんとなく買った一冊だったが、読み出すと止まらず、最近じゃ珍しく数日で読み終えた。日本という国の歴史の流れが追えるように、適度なボリューム、平易な表現でつなぎ合わさっており、リーダビリティが非常に高い。縦の流れを俯瞰した上で終盤に来る大東亜戦争以降のGHQによる日本人の精神の破壊は、わかっていても読むのが苦しくなる。そして、それが一番作者が伝えたいことだったんだろう。

 私自身は反日思想の強い北教組の教員が支配する北海道の学校で育ったが(小学校、中学校、高校で国歌を歌ったことがない)、同じような境遇の人にはぜひ読んでほしいと思う。ネットの影響で朝日新聞社をはじめとする左派マスコミや日教組の教員の虚偽や洗脳に気づいた今の20代から30代の世代には、響くものが多いだろう。そして、ニュースを見ていてふだん漠然と感じる不快感や使命感に言葉を与え、具現化するための大きな支えになるだろう。今の40代、50代の人たちの中にあるWGIP(War Guilt Information Program)の根強い影響についても理解が深まる。

 そして、この本を通読してから、AmazonのレビューやTwitterでこの本へ向けられたコメントをできるかぎりチェックすることを勧める。戦うべき敵の正体が見えることだろう。日本人の精神を懸命に脱価値化しようとする諸勢力の存在を肌で感じることができる。あなたはどちら側の人間だろうか。『殉愛』騒動でおおいに株を下げた作者だが、この本を世に残しただけで、60年間生きてきた価値がある。それくらい素晴らしい仕事だったと思う。
   

2018年12月31日月曜日

narrative of the year 2018

1位 この世界の片隅に(映画)
ラストで涙腺決壊。ディテールが良く何度も観たい。

2位 ハドソン川の奇跡(映画)
責任を持って働く男に沁みる作品。イーストウッド節。

3位 スリービルボード(映画)
個人的な関心領域とマッチ。ヘイトに満ちた世界で、人は何をするべきか。

ラストシーンのカタルシスにやられる。

5位 ズートピア(映画)
面白く、示唆に富む教育的な娯楽作品。

6位 FISHPEOPLE(映画)
海に行って現実逃避したくなった年だった。

7位 戦の国(小説)
合戦シーンでアドレナリンが出る。

8位 ジャージー・ボーイズ(映画)
バンドっていいよね、となる映画その2。

9位 U.S.A.(音楽)
踊ってて楽しかったのでランクイン。

10位 here comes my love(音楽)
曲調がクイーン系でエモい。

2018年12月22日土曜日

オシャレな人って思われたい!


 女性ファッション誌に連載していたオシャレ漫画エッセイの単行本化。

 山本さほ峰なゆかの作品は何故こんなにも胸に響くのだろう、と考える。世代が同じこともあるが、適度な文学的素養、適度な人間臭さ、適度な現実の受容、ほのかな隣人愛やユーモアのバランスが心地いいのではないか。基本笑えてバカバカしいが、人生に役立つTIPSがところどころに散りばめられている。

 個人的には現時点(2010年代)で、人の心を知るための最適のテキストの一つだと思うのだが、どうだろうか。少なくとも、25歳~40歳くらいの女性の服装や振る舞いという観察所見から精神力動や精神病理を看破する力は高まるだろう。彼女らの長きにわたる葛藤や試行錯誤の結晶として、あれらのファッションやライフスタイルはあるのだ。

 「自分をみじめに見せないことは、何より他人の魂のために重要だ」(三島由紀夫)
   

2018年12月16日日曜日

ボヘミアン・ラプソディ


 世界中でヒット中のクイーンの伝記映画。

 一切の前情報なしで観に行ったが、かなりよかった。伝説のロックバンドであるクイーンの1973年のデビューから1985年のバンドエイドでのライブに至るまでの軌跡を描く。

 物語としては、主人公でバンドのメインボーカルであるフレディ・マーキュリーの青年時代が核になっている。インド系移民という出自、同性愛、放蕩と乱交、HIV、驕り、孤独…etc. 彼の人生は様々な文脈においてのマイノリティーの典型が重複しており、苦しみながらも創造的に生きようとする物語はまさしくボヘミアン(世間からのはぐれ者)のラプソディ(自由な形式の叙事詩)というほかない。

 フレディの、その破滅的な耽美主義の傾向はビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンリンキン・パークのチェスター・ベニントンの系譜に連なる。苦痛に満ちた彼の人生は、音楽によって救われていた。生前には彼のセクシュアリティやHIV罹患は公表されておらず、当時は謎に包まれていた妖しげな輝きの正体を解き明かしたような映画だ。控えめだが強い芯を持つブライアン・メイらとのチームケミストリーがいい。

 バンドっていいよね、と思える映画の最高峰だろう。
    

2018年11月22日木曜日

コービー・ブライアント 失う勇気


 2016年に引退したコービー・ブライアントの伝記。20年に渡ってバスケットボール界の頂点に君臨し、栄光とバッシングを浴び続け、「NBAで最も好き嫌いの分かれる選手」とも評された男の人生。彼はどんな環境に生まれ、どのように生きてきたのか。ベテラン記者の周到な取材によって明かされる。

 記録は彼の出生前、NBA選手であった父親 ”ジェリービーン” ジョー・ブライアントとの因縁まで遡って描かれる。愛情と規律のある家庭環境、フィラデルフィアでの少年時代、イタリアでの日々、頭角を現した高校時代を経て、17歳でNBA入りしてからの苦難と栄光、そして、2016年に37歳で迎えた伝説の引退試合に続く軌跡。

 読んでわかるのは、コービー自身はバスケットボールにひたむきに取り組んだ真っ直ぐな男だということ。尽きることない向上心と凄まじい練習量によって培われたバスケットボールの能力が開花する一方で、家族やチームメートなど周囲との軋轢が生まれ、コマーシャリズムが絡み、人生が複雑になっていく。ピュアな情熱が、現実社会の有象無象の欲望によって汚されていく感じ。だが私生活がボロボロでも、コート上でのバスケットボールに彼は救われていた。そしてそんな彼のプレーは、観るものにも多くのものを与えた。

 分厚い本だがなかなかいい読書体験だった。日本語版の副題はドンマイ。
   

2018年11月21日水曜日

さくらん


 安野モヨコの江戸時代の遊郭の漫画。既刊1巻。連載は2003年頃。

 The 女の感性、という作品である。時代考証はしっかりしている(と思う)。同作者の他の作品にも見られる痩身、反骨心、性行動を特徴とする女性像の表現には病理を感じる。椎名林檎の作品の世界観に通じるものがある。不全感を溜め込む20代~30代の女性にニーズがありそうだ。欲求不満の女性性の代償。

 人間全般への造詣を深めるための教材として、読んでおいて損はないだろう。女性の心情の機微よ。
   

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