2021年2月14日日曜日

The Taste of Nature 世界で一番おいしいチョコレートの作り方


 高橋剛プロデュース、チョコレートのドキュメンタリー映画。高城氏のメルマガで知り、特典欲しさにAmazonでレンタルしてストリームで視聴。2021年1月公開。75分。

 東京の中目黒に店舗を構えるgreen bean to bar CHOCOLATEのオーナー安達建之氏の、チョコレート作りを追う作品である。同店の商品は、チョコレート界で最も高い権威をもつフランスのコンペティション(パリのサロン・デュ・ショコラ)で2018年にグランプリを受賞するなど、国際的にも高い評価を得ているらしい。その生産の過程を丹念に追うことで、高品質な1枚のチョコレートに至るための、複雑な世界の物語を体験することができる。

 店舗名にも入っている”bean to bar”とは、カカオ豆からチョコレートになるまでの全行程を一貫して手作業で行うチョコレート製造に関する理念のこと。映像による説明が豊富で、その過程がわかりやすい。カカオ豆が、ライチのような果実の種のようなものであることを初めて知った。発酵の過程があることもこれで知った。

 構成は、華やかにチョコレートが消費される東京の店舗から導入され、チョコレートの製造過程や、安達氏がbean to barという理念に至るまでの経緯を紹介し、後半は高品質のカカオを求めて南米のアマゾンへと向かうというもの。その過程で、一筋縄ではいかない経済格差などの社会問題を映し出す。

 私は高城剛氏のファンだが、氏がメルマガなどで言及する哲学が、本作品には凝縮されている感じがする。自分の足を使って歩き回り、全身で感じ取り、試行錯誤を繰り返す。ご褒美のような最高の瞬間にたどりつくためのヒントが、随所に散りばめられている。映画の構成やテーマとしてあまり目新しいものはないが(『おいしいコーヒーの真実』とかに近い)、ドローンを駆使した繊細な映像美や、優しい環境音楽、解説のわかりやすさが調和し、内容がストレスフリーで入ってくるのが好感。

 チョコレートのドキュメンタリーだが、チョコレートだけの話ではない。
 そんな映画だと思う。

2021年2月13日土曜日

命がけの証言


 2021年1月24日発売。
 現在進行形で行われている中国共産党によるウイグル弾圧の告発の書である。

 本書の背景によるウイグルへのジェノサイドについては、前作である『私の身に起きたこと とあるウイグル人女性の証言』の記事を参照。

 本書には、インターネット上で無料公開されている漫画作品のうちの未出版のものが収録されている。加えて巻頭には、モンゴル出身で日本で大学の教授職を務める文化人類学者である楊海英氏と作者の対談を収録している。内容は比較的コンパクトで、大部分は字の少ない漫画であり、1時間程度あれば読めるだろう

 忙しくて買う余裕がない方も、せめて無料公開されている漫画だけでも、下記のリンクから読んでほしい。ひとつ5分程度で読める。

 その國の名を誰も言わない
 https://note.com/tomomishimizu/n/ned24c90d3db1
 私の身に起きたこと ~とあるウイグル人女性の証言~
 https://note.com/tomomishimizu/n/nfd4c33d0fcdf
 私の身に起きたこと ~とある在日ウイグル人女性の証言~
 https://note.com/tomomishimizu/n/n42b085855154

 この本の内容に衝撃を受け、何かをしなければならないと感じる人が多いはず。そんな人は、少しでもこの漫画を、周囲の誰かに読むようにすすめてほしい。
紙媒体の書籍は1320円。余分に買って職場に置いたり、知り合いにあげたりするとよいと思う。マスメディアは黙殺し、中国をおそれて表立って発言できない人が多いので、各自精一杯できることをやるべきだと思う。これは遠い地で起きている他人事ではない。自身の国にふりかかるリスクを避けるためにも、多くの人がこの事実を知ることが必要である。
  

2021年2月4日木曜日

アクティベイター


 現代の東京が舞台の冲方丁の長編小説。2021年1月発売。

 東京の羽田空港に、亡命を求める中国国籍のステルス爆撃機が緊急着陸するところから物語が始まる。そして、謎の中国人パイロットから、機には核兵器が積まれていることが告げられ、前代未聞の大規模テロを防ぐための戦いが幕を開ける。元特殊部隊隊員の真杖太一(しんじょうたいち)のアクションがメインのパートと、警視庁の指揮官として会議室で戦う鶴来誉士郎(つるぎよしろう)のパートが交互に進み、事件の全容が次第に明らかになっていく。

 全体としては、大都市におけるテロとの戦いであり、スリルとサスペンスを味わう娯楽小説である。アメリカドラマの24(トウェンティーフォー)感があり、踊る大捜査線ザ・ムービー感もあるが、ベースは冲方流の娯楽活劇である。プロットの構成はシュピーゲルシリーズが近く、小栗旬とか綾野剛とか出てきそうな東京が舞台のクライムサスペンスなので、ライトノベルに抵抗のある層も楽しめるだろう。SF色や時代小説の色も薄く、まさに一般受けしそうな内容である。

 私は約15年ほどの冲方ウォッチャーだが、本作は、冲方丁がこれまでの作品で培ってきた技術を総動員した感がある。テンポ良く進みつつ、展開は緊張と弛緩を繰り返し、プロットは破綻せず収束していく。説明や描写がくどくないので、読んでいてストレスなく楽しめる。国際政治、官僚機構のパワーゲーム、格闘シーンの殺陣、話者の性格や人間同志の関係を表す会話の妙など、いずれも磨き上げられた職人技という感じで、キレのある描写が心地よい。米軍関係者、中国人のヒロイン、韓国やロシアの刺客など、登場人物も魅力的。

 本書は今年のNo.1候補である。家に届いてから読み始めて没頭し、一気に読み終え、幸福だった。こういう王道路線、作者にはもっと書いて欲しい。能力を持て余しがちな彼の創作の、一つの最適解であろう。