2019年6月27日木曜日

フォレスト・ガンプ 一期一会


 山形浩生のTwitterのコメントを見て、久しぶりに観たくなったので鑑賞。初めて観たのは中学生のときの金曜ロードショーだったか。大学生のときにも観たと思うので、10年ぶりくらいの鑑賞。

 先天的な知的発達の問題(知恵遅れ)があるフォレスト・ガンプという少年が主人公で、彼の数奇な人生が、20世紀後半のアメリカの歴史とともに描かれる話である。1950年代、アメリカの片田舎であるアラバマ州グリーンボウで生まれ育ち、幼馴染のジェニーと出会い、ヴェトナム戦争やヒッピームーブメントなどの歴史的事象に翻弄される。

 同時代を生きたアメリカ人にはたまらん内容だったのだろう…という「ツボを押さえた感」が全面に出ている。邪念のない、純真な心を持つフォレストの眼に映る世界は慈愛に満ちているが、能天気な心温まる話では決してなく、世界の残酷さ、無慈悲さたっぷりと盛り込まれている。母親の性的供与、隣人の小児性愛と性的虐待、幼少期に外傷を負った少女の転帰、戦争と死別、など、滑稽でコミカルな語り口とは対照的な、厳しい現実のエッセンスが随所に配置され、観るものに思弁や洞察を促す。

 贅沢な90年代の娯楽だった本作品も、2019年に30代になって観た私の心にはあまり響かなかった。泣かせのテクニックのあざとさが鼻についたのか。いい出来の映画だとは思うが、良くも悪くも90年代の呪縛のようなものを感じる。Loveで何でも解決しようとする、思考停止しがちな思想のような。
  

2019年6月10日月曜日

サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福


 世界中で絶賛されているイスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリが書く人類の通史。原作は2014年、日本語版は2016年発刊。

 2000年代最強の本がジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄』であれば、2010年代最強の本は本書であろう。高城剛が絶賛していたので手に取った本書だが、期待に違わず知的刺激に満ちていて、読んでいてずっと楽しかった。該博な知識と透徹した洞察で人類の歴史を広く深く俯瞰し、マクロな視点で歴史の流れの本質を指摘する。

 「虚構を信じる能力が人類の強さ」という主張が、このブログが目指すものと重なり、なかなか感慨深かった。ヒトは物語を共有することで、連帯を可能にし、生物としての個体の限界を超えたパフォーマンスを可能にする。貨幣も、言語も、法律も、国家も、人類の頭の中のみに存在するイリュージョン(幻想)に過ぎない。

 また読み返す価値のある本だろう。素晴らしかった。
   

2019年6月9日日曜日

読書という荒野


 幻冬舎社長、見城徹の回想録/読書論/仕事論のエッセイ。

 氏のことはこの度のTwitterの騒動(小説家の津原泰水の小説の実売部数を公表し後に謝罪)で興味が湧いた。実は騒動の前から個人的にフォローしており、硬質な文体と潔い主張が気に入っていた。彼の言語中枢はいかにして形成されたか、また、彼は何を理想として読書をしてきたか。そのあたりが自身の体験とともに綴られる。

 「これくらいの強い覚悟を持って本を読めよ」という後進へのメッセージが全体を貫く。編集者としての精神形成、劣等感の克服、人生におけるデシジョンメイキングの指針として、読書体験を通して思考力を養うことがいかに大事かを、男らしい文体で切々と語る。説教臭さやナルシシズムが鼻につくと言って嫌う人が多そうだが、私は好きだ。彼の編集者、会社経営者としての実績が凄まじさにはただただ恐れおののく。

 これは今年読んだ作品の中でもかなりのヒット。胸が熱くなり、もっといい本を読みたくなる。こういう気合いの入ったおっさんが今の日本には圧倒的に足りない。