SGT. PEPPER’S LONELY HERTS CLUB BAND
「サージェントペパーズ・ロンリーハーツクラブバンド」と読む。伝説的な名盤として名高いビートルズの1967年作品。
歴史上最も偉大なロックアルバム、みたいなランキングを作ると大体これが1位になる。ということで、ロックを体系的に学習しようしていた筆者が大学生の頃に買ったものである。初めて通して聴いた時、正直いうと、「それほどじゃないんじゃないか…」と思ったことは告白しておく。
内容としては、世界初のコンセプトアルバム(ペパー軍曹のブラスバンドがライブをしているという設定)であり、ライブで演奏するシンプルな編成のロック音楽に限界を感じたメンバーがスタジオにこもって作った作品である。実験的要素に満ちていて、音や構成の遊びが沢山ある(ラストの謎のお喋りのループとか)。ビーチボーイズの名盤『Pet sounds』にインスパイアされたとメンバーはしばしば語るが、あまり全体への影響はない気がする(#6 She’s leaving homeとか、もの憂げな曲がそうなのか)。
まあ、数年ぶりにじっくり聴いてみたわけだが、クリエイティブなエネルギーやインスピレーションに満ちているとは思うが、音楽的な感動があるかというと「まあそんなには…」という感想。ロック音楽の歴史的転換点となったという一点において大きな価値がある作品だろう。
一連の流れを経て、最後に来る#13 A Day In The Lifeは好き。
フルーツ宅配便
1話完結型のデリバリーヘルスの漫画。既刊2巻。
エロシーンは皆無で、「どのようにして女性は性風俗店で働くようになるのか」に焦点をあてた人間ドラマが主。ほのぼのした絵柄とキャラクターで描かれるが、路線は『ウシジマくん』に近く、そのテーマは切実で、金銭的な問題で風俗に身を落とさざるを得なかった女性たちの鈍い痛みが底に流れる。
劣悪な養育環境、低い自己評価、借金、暴力、シングルマザー…etc. 彼女らはいつの時代にも一定数存在し、軽侮の対象になりながらしばしば黙殺され、誰にも注意を向けられることなく、社会の水面下で生きていく。光のあたらない場所で、醜い欲望や狡猾な業者に搾取され、踏みにじられ、そして、ゆっくりと命を奪われていく。
筆者が個人的に考えている、心の専門家になる人に読んでほしい本シリーズに加えたい。己の尊厳を犠牲にすることを選ばざるを得なかった女性たちを、誰に責めることができよう。
2017年4月16日日曜日
機動警察パトレイバー2 the movie
前作と連続してhuluで視聴。1993年作品。
こちらは思想色の強い大人の作品。舞台は2003年東京近郊。横浜ベイブリッジにミサイルが発射されて爆破される事件が起き、その後次々と人為的な軍事的危機が続発し、国防が攪乱される。イケてない警察上層部の指示に翻弄される指揮官の2人(後藤と南雲)の描写が主で、心情の機微と役職上の葛藤が描かれる。
元ネタは三島由紀夫の決起だろうか。平和ボケした日本人と官僚機構に対するショック療法という側面が強い。犯人の柘植は特殊な映画的悪役の類型として、伊藤計劃のエッセイにしばしば登場する。wikipedeaを読むと、作品内で言及される話題には監督押井守の思想が色濃く反映されているよう。
ロボットアニメでこれをやる必然性はあまりない気がするが、面白かった。骨太の思想的バックボーン(たぶん)がある作品は面白い。語り過ぎているようで、語られない奥ゆかしさが数多く残される人間ドラマもいい。満足。
機動警察パトレイバー 劇場版
しばしば伊藤計劃がエッセイで言及するのが気になっていたため、前情報なしでhuluで視聴。1989年作品。
舞台は1999年、東京。警視庁の管轄下でレイバーと呼ばれる巨大ロボットが労働力として活用された世界。警察にもレイバー専門の部隊(特車二課)がいて、主人公はその部隊の人達。
監督は押井守。登場人物たちの衒学的で冗長な語り口が鼻につくが、内容を理解できると脳内に快楽物質が分泌してきて、ハマる気持ちもわかる。『攻殻機動隊』へと連なる理系男子の楽園といえよう。犯人のプロファイルを甘くして象徴にとどめ、意図を作中で説明しすぎないのもセンスがいい。
主題はコンピュータによる制御された管理社会のリスク、都市社会が生み出す怨恨と都市へ向けられた破壊欲求、あたり。無差別な大規模テロの実行犯の話である。2010年代の今観ると既視感のあるテーマではあるが、それでも面白かった。理論的基盤、キャラクターともに設定がしっかりしているせいか興ざめするシーンは特になかった。
全体として満足。
そして、次は2へ。
2017年4月15日土曜日
凶悪
実際に起きた事件に基づくという2013年作品。
同じ監督(白石和彌、北海道出身)の『日本で一番悪い奴ら』を観た時もマーティン・スコセッシの匂いを感じたが、本作品ではもっと露骨。『グッドフェローズ』へのオマージュと思しき構成(冒頭のシーンの使い方)、手ぶれするカメラワークが生む臨場感と不安感、スタイリッシュな音楽とバイオレンス、サクサクしたテンポ、など。きっとスコセッシ作品が好きなんだろう。
…が、それはエッセンスに過ぎず、本作には独立した魅力がある。金のために非道な殺人を繰り返す集団、目を背けたくなる現実からの逃避のために代用される主人公の記者の正義感。人間の闇を覗くときに感じる後ろ暗い快楽の存在に妻が言及するシーンは胸に迫る。何より、記者を演じる山田孝之の虚ろな目が主題を絶妙に表現している。
そして、ピエール瀧とリリーフランキーを筆頭に登場する役者のオーラが非常にいい。
総合的に、映画として単純に面白かった。こういう良質な作品をもっと観たい。
この監督には今後とも期待。
2017年4月14日金曜日
2017年4月13日木曜日
桐島、部活やめるってよ
高校生のスクールカーストの話だと聞いていたが、実際読んでみたらその通りスクールカーストの話だった。関西のそれなりの進学校と思われる高校で、様々な層の視点が切り替わり高校という場を描く群像劇。
目立って騒ぐ脱童貞を果たしているイケメン、吹奏楽部の女の子、映画撮影に情熱を燃やすイケてない男子、など。バレー部のキャプテンを務めていたのに中途退部したという桐島は象徴的な存在で、様々な距離感から見える彼の像は焦点を結ばず、近いようで遠い同年代の心情の理解不能性を浮き彫りにしている(と思う)。
筆者は動物行動学の観点から、最近は何でもかんでも人が集まれば順位制ができるという視点で世の中をみるんだが、その機運にハマって、楽しかった。ヒトは社会的地位を気にする生き物である。そして、誰にだってその人なりの悩みがある。
WE ARE X
映画館で鑑賞。ハリウッド制作のX JAPANの物語。
主にYOSHIKIの回顧と独白からなり、X JAPAN結成時からTAIJIの脱退、海外進出と挫折、TOSHIの洗脳、解散など当時の状況を映像とともに語るドキュメンタリー。YOSHIKIの幼少期のエピソードにも焦点が当てられ、YOSHIKIの生身の人間としての側面が描かれる。
リーダーのYOSHIKIとボーカルのTOSHIの物語が主。こんなの、泣いてまうやろ。HIDEが最強に格好いいのがよくわかる。不器用にしか生きられなかったTAIJIも好きになる。
X JAPAN再結成の報など聞いていたがフォローはしていなかったが、彼らの辿った軌跡は味わい深い。少しでもXに興味のある人は観るといいと思う。