2017年1月31日火曜日

すくすくそらまめ マイペース赤子のあるある成長期


 嫁に勧められて読んだ育児エッセイ漫画。Twitter連載の書籍化らしい。

 形式は主に4コマ漫画で、無骨でクールな男児(顔が空豆に似ている)の育児に奮闘する母の日常が綴られる。仏道系で地味目な母親の絵柄と躍動感がなく淡白な独特のテンポに、女子力を削ぎ落とした潔さがある。

 昨今、子育ての純粋な楽しさを声高に叫びづらい世相だと思うので(面倒くさい人が押し寄せて来るのが面倒なので)、こういう等身大な歓びの表現がかえって新鮮に思える。子の普通の成長が普通に楽しい、という単純で見失いがちな事実を再確認できる。価値観の押し付けや説教臭さがないのが特にいい。

 出産前後の母親のメンタルに大変有効でしょう。日本中の産院に置けばいいと思う。
   

2017年1月29日日曜日

氷の微笑


 ヤバい女と壊れた男の話。1992年作品。

 サイコパスな妖女はシャロン・ストーン、傷つき酒と女に溺れる刑事はマイケルダグラスが演じる。頽廃的な性愛と狂気の匂いが全編を覆い、大変反社会的で観ていて楽しい。『ゴーンガール』のようなサイコホラーの空気が近いが、本筋は真犯人を追うミステリー。
 
 精神分析が盛んだった時期のアメリカの世界観が底にある。近い時期の作品『羊達の沈黙』や『真実の行方』の根底にもある人間観、「誰しも心の奥底には危ない衝動や醜い欲望を抱いている」という一過性に流行したパラダイムの影響が見て取れる。2010年代の今となっては、それがあまり一般的な人間の性質ではないと世界中のクリエイターが感じているのか、この手のサイコパスの話が減った気がする(『ゴーンガール』とかあるが)。

 妖しく危険な90年代の大人の娯楽映画というところか。
 特に深いテーマはない…と思う。
   

2017年1月28日土曜日

GO(映画)


 全盛期の窪塚洋介が観たくなり、10年ぶりくらいに視聴。

 原作もそうだが、近年の反日、反韓国ヘイトの思想とは一線を画し、「在日朝鮮人」というわけのわからん境遇に生まれた青年の魂の叫びをありのままに描いている感が潔くて楽しい。題材は「在日」だが、実際には無国籍な暴れん坊のタフな闘いの物語である。

 2001年の作品であり、作中には筆者が高校生だった「あの頃」の空気が漂う。携帯電話もインターネットもない時代の青春には身体性があり、未知なるものへの恐れと憧れがあった。暴力なり、セックスなり、生々しくて猥雑な本能の、危うさと魅力が残っていた時代。

 主演の窪塚は緩いシルエットのジャンル不詳なファッションが格好いい。そしてやはり、独特の表情や雰囲気が最高。バスケが素人感丸出しな点以外は完璧である。ああいう唯一無二なオーラを出せる若い役者って最近いない気がする。

 思い出補正もあってかなり楽しめた。この感覚を忘れない大人になりたいもんだ。
  

2017年1月26日木曜日

すばらしい新世界


 ジョージ・オーウェル『1984年』と並び評される英国ディストピア小説の新訳版。
 オルダス・ハクスリー著。1932年作品。

 人工授精と幼児期からの条件付けで人間性を徹底管理される未来の社会が描かれる。所属する社会階層は生まれつき定められ、容姿や能力もデザインされ、国家が推奨するフリーセックスとドラッグに耽る人々に悩みはない。そんな世界に馴染めない上層階級のマルクス・バーナード、文明の外の世界で育った「野人」を軸に物語は進む。

 後半の野人と世界統制官のやりとりが最高だった。何故このような世界がデザインされたかという動機が赤裸々に語られ腑に落ちる。万人が幸福を享受する最大多数の最大幸福な社会を目指すとこうなるということだろう。結果として、個人に固有な価値や真実が犠牲になる。

 テーマは『PSYCHO-PASS』など後世のディストピア作品に通じる。2010年代の今読んでも色褪せない普遍性がある。大森望の解説を読んで、伊藤計劃『ハーモニー』をまた読みたくなった。
   
    

2017年1月13日金曜日

ヒカリノアトリエ



過去は消えず 
未来は読めず 
不安が付きまとう 
だけど明日を変えていくんなら今  
今だけがここにある


・・・

 久しぶりにシングルCDで発売されたミスチルの新曲。NHKの朝の連続ドラマ『べっぴんさん』の主題歌の表題曲と、ライブで再収録の5曲入り。

 ミスチルの作品には仏教の教えに通じるものが多々見受けられるが(例:signは諸行無常、フェイクは色即是空)、この表題曲は禅語の「而今(にこん)」というのが当てはまるように思う。シングル曲で一番言いたいことは2番のサビに置かれる傾向があり(タガタメとか)、本作も同様である(上記)。

 音楽的には特に目新しいことはないが(実際は演奏メンバー等のこだわりがあるらしいが)、これまでのバンドの活動の延長上にあり、紛れもなくMr.Childrenの最新バージョンを提出している。負の側面から目を逸らさずに、自分にできる限りの最善を目指す、というメッセージは一貫している。構成に工夫があり、表題曲はフルコーラスで聴くと味わい深い。

 個人的なMVPはボーナストラックの解説付きOver。長年のファンにたまらない。
   

2017年1月3日火曜日

カリートの道


 ニューヨークの元麻薬王が刑務所から出所して、悪い人達の争いに巻き込まれる話。1993年作品。

 大人の色気と暴力の娯楽映画で、脚本のまとまりがいいのか観ていてずっと楽しかった。主演のアル・パチーノと女優のペネロープ・アン・ミラーを筆頭に、チンピラやギャング達のファッションや振る舞いが格好いい。筋がなくても映像と音楽で雰囲気を楽しめる。任侠映画として優等生な仕上がりになっている。

 新年一発目から幸先のいいスタート。観ていて豊かな気持ちになった。