結論:死ぬよ。
経済的不況に見舞われた時、国は財政緊縮策(健康保険、失業者支援、住宅補助などの政府支出を減らす)か財政刺激策(上記の社会的セーフティネットに積極的に予算を配分する)のいずれかを選び、危機を乗り切ろうとする。そこで前者の財政緊縮を選ぶと人が死にまくり、経済も伸び悩む、というのが作者の主張。主に1929年~2012年の各国データを基に事例を挙げながら経済政策と公衆衛生の関連を論証していく。
事例は1929年の大恐慌後のアメリカのニューディール政策、1991年のソ連崩壊後の急速な市場経済への移行、1997年のアジア通貨危機後の東南アジア、2007年のアメリカのサブプライムローンの破綻に端を発する世界同時不況下でのギリシア、アメリカ、イギリス、アイスランド、スウェーデンの動向など。疫学的なデータや経済指標を統計学的手法を用いて解析すると、経済政策の選択によっていかなる惨禍が起きるのかがよくわかる。
国が公衆衛生の予算や住宅補助をケチると、国中にHIVや結核が蔓延し、労働力になりうる人々が自殺や心臓疾患やアルコール依存で沢山死ぬ。IMF(国際通貨基金)やECB(欧州中央銀行)など、エコノミスト達は帳簿上の数字と理論を重視し、国民の健康を過小評価しがちらしい。そして、結局は蝕まれた国民の健康に経済も足を引っ張られる。実世界では数えきれない数の悲劇に見舞われる家族が生み出され、国が地獄絵図と化す。
これは今年読んだ本の中で最も有益な一冊。
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経済には、人々がアルコールを暴飲するようになる、ホームレスシェルターで結核に感染する、鬱病になるといったリスクの程度を高めたり低めたりする力がある。高める方向に働けば死亡リスクが増大するが、低める方向に働けばそれは保護となり、ホームレス状態から脱したり、人生を立て直す人が増え、死亡リスクは減少する。だからこそ、たとえわずかな予算変更であっても、それがボディ・エコノミックに---ときには予想外の---大きな影響を及ぼすことがある。
本書 p236
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