2016年11月17日木曜日

ファイトクラブ


 かなり好きな映画。久しぶりに観返したので、感想など。

 ネタバレせずに説明するのが大変で、早い展開と複雑な構成を初見で理解するのが難しい映画でもある。大筋を言うと、不眠症で目が死んでいる企業勤めの男が刺激的な自由人(タイラー・ダーデン)に出逢って振り回される話、ってことになると思う。

 まず魅力は役者のオーラ。イカれた自由人のタイラー・ダーデンを演じるブラッド・ピットの雰囲気が映画史上最強レベルに格好いい。服装、肉体、語り口、表情、間、全ての調和が生み出すイカれっぷりが圧巻。そして、エドワード・ノートンが演じる主人公の情けなさと、豹変するキレっぷり。二人のコンビが最高にクール。

 内在するテーマもいい。1999年の作品でありながら2001年の9.11のテロを予見していたとしばしば評される本作のテーマは、人を非人間化するグローバルな資本主義社会へのアンチテーゼ。睾丸の喪失や血みどろの殴り合いで露骨に男性性の表象が強調され、精神的に去勢された現代社会の成人男性の鬱屈と発露の衝動を描く。そして、死と直面することで際立つ生の一回性、創造のための自己破壊、痛みを能動的に受け入れることで見える世界、など、末期資本主義社会の処方箋になりうる思想の断片が散りばめられている。

 全体の基調はデイヴィッド・フィンチャーの王道。抑えた色調と、強烈な風刺を込めたブラックコメディ。ダークな空気の中で人間の情けなさと愛おしさが際立つ。ラストシーンは坂口安吾の『白痴』が重なる。文明に汚された価値観の禊。

 なんとなく、トランプが大統領になった時代背景も作品のテーマに重なる。華やかな消費社会の下に堆積する、言語化されていない民衆の鬱屈と暴力的な衝動の予感。資本主義がやり過ぎるとこうなるという怖いお手本。そんな映画。
   

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