よしもと芸人文化 × 純文学。
内容は、若手の漫才師である主人公(ていうか又吉)が、熱海の花火大会の会場で出逢った異端の先輩芸人の神谷と共に過ごした日々の話。純粋な意味での「漫才師」の生き方を狂信的に追及し、世間からはぐれ、やがて排除されていく神谷のキャラクターは『医龍』における朝田を思い出した。枠からはみ出ることができない凡庸な主人公目線で語られるのもよくある定型。娯楽の王道をいく構成を踏襲し、キレのある隠喩や情景描写などの小説的技術を駆使しつつ、「よしもとの芸人」の青春を描いたって感じ。
「誰かを笑わせる」という営みの意義や本質については本ブログ筆者もよく考えているテーマであり、そのへんについても現役の芸人らしい作者又吉の笑いの美学が語られている(神谷の巨乳ネタを諌めるあたり秀逸)。誰も傷つけない、自分を貶めるでもない、それでいて質の高い笑いって難しいよね…とか読んでいていろいろ考えた。又吉の実体験でもあるんだろうが、サッカーの推薦で大学に行くでもなく、受験勉強を頑張って学歴社会に生きるのでもなく、なぜお笑いという道を選ぶのか、という問いこそがこの作品の主題であると思う。反体制、反骨精神、批評精神、常識への挑戦、人間性の奪還…などという言葉が筆者の頭に浮かんだが、ヒトを非人間化するシステムへの戦いの手段として「お笑い」はあるのだ、というのが本ブログ筆者の見解である。又吉はきっと文学と漫才で、その戦いを戦う道を選んだ。
芥川賞作品だが不条理さや難解さなどの純文学の濃度は低めで、リーダビリティが高く誰が読んでも楽しめる。登場する芸人のネタや掛け合いもハイクオリティ(テレビ出せそう)。総じて、面白い一冊だったと思う。こら売れますわ。
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