2015年10月30日金曜日

ジョジョの奇妙な冒険 Part.4 ダイヤモンドは砕けない


 作者のルーツへの回帰は一層加速し、物語の舞台は日本の地方都市へ。

 1999年の仙台(がモデルの架空の街・杜王町)に住むジョセフ・ジョースターの隠し子の東方仗助(ひがしかたじょうすけ)が主人公。時代錯誤のツッパリスタイルだが根は優しい愛すべき馬鹿、というジャンプ黄金時代の王道を行くキャラクターである(cf. 前田太尊、桜木花道浦飯幽助)。必然として、1990年頃に流行ったツッパリヤンキー漫画のコメディテイストが漂い、漫画家・岸部露伴を筆頭に敵味方問わず愛すべき変人が多数登場し、しっかり人間讃歌している。
 
 作者の解説にある通り、第4部の主題は”街”。前半の日常パートも新鮮だが、後半になって登場する猟奇殺人鬼・吉良吉影が現れてからのサイコ・サスペンスな展開が圧巻。次々現れる敵のスタンドとのバトルを軸に、SF要素あり、繊細な心理描写ありで、旺盛なサービス精神全開で楽しませてくれる。 

 しかし富樫義博作品への影響が強いな、というのが何度も浮かんだ所感。とりわけハンターハンターへの影響が色濃い。ボマーとか。
   

2015年10月18日日曜日

武器よさらば


 第一次世界大戦に従軍経験のあるヘミングウェイの長編小説。1919年頃のイタリアが舞台のラブロマンス。

 主人公はイタリア軍に所属するアメリカ人の青年フレドリック。前半は戦場での兵士の生活の様子が主で、後半に進むに連れ、英国人の看護師キャサリンとのロマンスの色が強くなる。そして最後は、、、前半と後半のコントラストの妙で胸に迫る。戦時の非常と、平穏が保証する情愛の日々の対比

 ヘミングウェイ的な人生の愉しみ方が詰まっている。戦時のリアリズム、情事と酒と旅情、底に横たわる喪失と虚無感。簡潔な文章で喚起される空気がいい。なんというか、潔さと諦観がある。

 でもまあヘミングウェイは短編の方がいいな、という感は否めない。『陽はまた昇る』よりは読んでいて楽しかったが、筆者は短編の方が好き。
   

2015年10月12日月曜日

ジョジョの奇妙な冒険 Part 3 スターダストクルセイダース


 日本人が主人公、というのがまずはポイント。
 ジョジョの第三部が連載された1989年頃というのは、それまで『アルプスの少女ハイジ』や『母をたずねて三千里』などでヨーロッパが舞台の物語を描いていた宮崎駿と高畑勲が「日本への恩返しのため」とトトロと火垂るの墓を作ったのと同時期である。戦後教育で欧米への憧憬と引け目を植えつけられた作者(荒木飛呂彦)の世代が日本を再発見するという、戦後の物語制作史の必然とも言えるちょっとしたシンクロニシティ(共時制:奇妙な事実の符号)を感じる。第一部ではイギリスの貴族文化、第二部のアメリカンにやんちゃする若者像を経て、西欧を舞台にした伝奇物語の文脈が日本で流行中のツッパリ不良文化に出逢い、空条承太郎が生まれた。日本代表の承太郎がエジプトを目指し、オリエントな情緒立ち込める異国の旅を続ける。

 そして、勿論スタンド。
 第三部より登場するスタンドはその後ジョジョの代名詞とも言える戦闘システムになる。話が進むにつれ初期設定が破綻していく気がするが、可視化された精神戦を勢いで楽しむのが吉。深く考えずに、最後は「オラオラ!」でスカッとすれば良い。

 後世への影響。
 幽々白書の仙水篇は影響受け過ぎだ。

 作風等。
 劇画な絵柄で過剰な程のギャグを盛り込む、という路線を見出し、少年誌の王道パターンの一つを確立したよう。承太郎とディオ以外、ポルナレフを筆頭に大体みんな三枚目に落ち着いていく。アブドゥルの変遷たるや。

 まとめ。
 承太郎が最高に格好いい。やれやれだ。
   

2015年10月9日金曜日

精霊の守り人


 和製ファンタジーの金字塔。

 旅の武術者バルサが、命を狙われた皇子チャグムと偶然出会い、チャグムの命を守るために逃避行をするという話。舞台装置は和風で、日本の平安時代風の皇族や呪術師や建国の神話や催事が物語を形作る。ジブリ臭もある。

 本筋は悲運を背負った大人の女性と高貴だが世間知らずの少年の化学反応が生み出す成長物語。そこにバトルや謎解き要素が加わり、魅力的なキャラクター達の人間模様が紡がれる。

 読書力の高い筆者の友人2名が絶賛していた通りのハイクオリティ。文庫版解説の恩田陸らもべた褒め。ただし、筆者としては期待しすぎたせいか、まあまあというところ。シリーズ全十巻を読むモチベーションは現時点では生まれず。

 非西洋なファンタジーってのがポイント。ありそうで今までなかった傑作ということだろう。
  

2015年10月5日月曜日

ひとりっ子


 2007年出版のグレッグ・イーガンの短編集。日本語訳・編としては3作目。

 相も変わらず、脳へ操作を加えてアイデンティティを突き詰める作品が多い。『行動原理』『真心』『決断者』『ふたりの距離』あたりがその路線。数学SFの『ルミナス』は上海が舞台のスパイ映画のような空気を味わえる。

 歴史改変ものの『オラクル』と、AI(人工知能)の子を巡る夫婦の葛藤を描く表題作『ひとりっ子』は量子論的な多世界解釈(異なる世界線の存在、パラレルワールド的なやつ)が関係する話らしいが難しすぎて初読ではよく分からず。

 イーガンの短編について、個人的にはちょっと飽きがきている。衒学的な科学的着想の彩りと登場人物がアイデンティティに悩む展開がワンパターンな印象。量子論、代数学、プログラミング、あたりを勉強したら理解が促進し、もっと楽しく読めるのか。

 とは言え、奥泉光の巻末解説を読んで、次は『順列都市』に挑みたい気分に。