2015年6月12日金曜日

赤めだか


 落語家の立川談春の修業時代の回顧エッセイ。師匠である現代落語界のレジェンド、立川談志との青春の日々が綴られる。

 何より立川談志という人間の魅力が光る。「落語とは人間の業の肯定である」と断じ、我が儘で、喧嘩っ早くて、信念と侠気を持って伝統や権威に刃向かうロックスターのような生き様。寄席で談志の『芝浜』を聴いて衝撃を受け、その勢いで談志門下に入門した談春中学生の時代のエピソードから物語は始まる。そして、師の理不尽な仕打ちに耐え、弟子仲間らと「二つ目」を目指す修行の日々が綴られる。

 汗と涙の青春物語としても、未熟な若造が成長していく立志伝としても楽しめるが、落語という伝統芸能の世界の力学が分かる教養の書でもある。不文律の空気や信頼で形成された日本独特の文化的土壌が生み出す深い味わいは、西洋型ビジネスの合理主義へのアンチテーゼとしても成り立つ。一見不合理で、エゴの塊の談志のような男が存在することで組織が得るものは沢山あるように思う。

 笑えてじわりと来る、生きる力が湧くいい話である。余談だが、この本を読んだ後にミスチルの歌詞世界には落語の感性が下地にあるな、とふと思った(桜井和寿は中学時代落語研究会に所属)。人間の業を肯定し、反骨精神を押し出す芸術的意匠の話。

 ロックンロールだ。
   

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