2015年2月22日日曜日

しあわせの理由


 大学以来久しぶりに読み直して痛感した。これは最強の短編集だ。

 SF評論家の大森望曰く「(2000年代時点で)現代SF最大最高の作家」グレッグ・イーガンの短編集。分子生物学やナノテクノロジーを含めた近未来の医学や量子力学や情報科学の理論を自在に操りながら語られるのは基本的には哲学。読む者の常識を揺るがし、アイデンティティへの認識を引きずり回し、知的刺激と共に情緒的な興奮やカタルシスや提供する。

 私的ベスト順位は以下。
 
1位 ボーダーガード(量子サッカーと不死の話)
2位 愛撫(猟奇犯罪もの)
3位 しあわせの理由(神経伝達物質と心の話)
4位 道徳的ウイルス学者(狂信者とテロの寓話)
5位 適切な愛(移植と生命倫理の話)

 医学知識は8割くらいは対応できたが、IT関連、量子力学関連の知識は厳しかった。(日本語訳でも)分からない単語は無数にあるが、物語の筋を理解できた時の強烈な感覚は比類ない。最新鋭の科学が人間に与える影響や人間倫理やアイデンティティへの洞察を得るのに、短編小説という形式を選んだこれ以上の書物は存在するのだろうか。

 精神科医のような仕事をする人に是非読んでほしい作品No.1である。
   

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