2020年5月16日土曜日

父親たちの星条旗


 硫黄島プロジェクトのアメリカ編。2006年作品。

 『硫黄島からの手紙』と対になっている作品で、こちらは1945年2月から3月の硫黄島での戦いをアメリカ側の視点で描いており、両作品でリンクするシーンもある。 映画のポスターにもなっている象徴的な写真の被写体となった若いアメリカ兵たちが主役のパートと、そのアメリカ兵の息子が当時の状況を関係者に取材するパートが交互に現れ、真実が明らかになっていく。

 軍が広報戦略として利用し、単純化された英雄譚として祭り上げられた一兵卒のリアルな心情が描かれる。各々動揺し、反目したりするが、抑制が働き、個人の尊厳が示される。過剰な演出を廃し、等身大の人間を描き出すイーストウッド節である。極端に感動的なシーンはなくとも、胸の奥に残るものがある。方向性は『ハドソン川の奇跡』が近い。

 日米が舞台の両作品を観て、豊かな時間を過ごすことができた。いい仕事だ。
  

2020年5月11日月曜日

硫黄島からの手紙


 大東亜戦争(第二次世界大戦)末期の硫黄島での戦いを描く「硫黄島プロジェクト」の日本版。2006年作品。

 99%日本の戦争映画という風情だが、クリント・イーストウッドが監督したアメリカ映画であるという事実に恐れ入る。役者は皆日本人で、栗林忠道中将を演じる渡辺謙、一兵卒の二宮和徳(ARASHI)、加瀬亮や、井原剛志など、配役はまさしく適材適所の感がある。演出のくどくなさ、展開のテンポの良さがイーストウッド節で、観ていてストレスがなく、最小限の装飾が底流にある骨太の哲学を際立たせる。

 世間はコロナ禍の真っ只中だが、この戦時中の生活の悲惨さを見れば、この程度で文句を垂れるなど、どれほど甘いのかに気づかされる。戦争という圧倒的な人間性の否定と、その中で輝きを放つヒトの命の尊さが見て取れる。月並みな感想だが、そんな感じだ。
   

2020年4月27日月曜日

都市と都市


 英国の小説家チャイナ・ミエヴィル著。2009年作品。

 東ヨーロッパのバルカン半島に、ベジェルとウル・コーマという二つの都市国家が、同時に同じに場所に存在するという設定。互いの街の人間は交流を禁じられ、互いに見て見ぬ振りをする独特のルールが厳格に実施されている。そんな場所である日、変死体が発見される。所轄の刑事である主人公のティアドール・ボルル警部補は、その捜査を開始し、次第にトラブルに巻き込まれ…というのが筋。

 <ブリーチ>、<クロスハッチ>などの独特の表現が多く、最初は面食らうが、世界観が次第に見えてきて、慣れてくるとグイグイ読める。古典的な刑事物、ミステリー物の空気感を大事にしつつ、特異な設定の部分が後半に進むほど生きてくる。世界観の構築や登場人物の掛け合いなど、全体に質が高いので、異質の世界の冒険にどっぷりと浸れる。小説を読むことの原初の喜びを味わえる。

 ディック-カフカ的異世界を構築し、ヒューゴー賞、世界幻想文学大賞をはじめ、SF/ファンタジイ主要各賞を独占した驚愕の小説…とハヤカワ文庫の背表紙の解説に書いてあるが、だいたいその通りである。期待は裏切らない。
   

2020年4月26日日曜日

プロ棋士の思考術 大局観と判断力


 碁打ちの思考経路とはどのようなものか、と考え、タイトルのみを見て衝動買いした本。買ったのは電子書籍版だが、底本の書籍は2008年発売。

 作者の依田紀基氏は、1970年生まれ、北海道の岩見沢市出身。10代でプロデビューした俊才であったが、若くして女やギャンブルに溺れ、おおいに人生を寄り道している。これを書いている2020年4月現在でも現役だが、twitter上で日本棋院の執行部を批難したことが問題視され、6ヶ月間の公式戦禁止処分を受けている。容姿は強面だが、精神にも自由さが残っているのか。無頼で磊落なようで、それでいて繊細な感性が内には同居する。厳しい勝負の世界で生き続ける、強き者のメンタリティが彼には学べる。

 本書では彼の生活史や、囲碁観、人生観が語られる。ある種のステレオタイプな構成ではあるが、一つの道に徹して生きた人間の含蓄がある。囲碁で勝ち続けるための8つのK(感動、繰り返し、根本から考える、工夫を加える、感謝、健康、根気、虚仮の一念)などは、あらゆる道に通じる。バスケでも、精神医学でもそうだろう。

 気張らず買って、読んで良かったと思える本。シンプルな良著。
   

2020年3月21日土曜日

コンテイジョン


 パンデミック映画その2。
 スティーブン・ソダーバーグ監督の2011年の作品。
 アマゾンプライムのレンタルで視聴。

 スター俳優が多数登場するキャストの豪華さに目を奪われるが、実際に中国初の新型コロナウルス(SARS-CoV-2)が世界中で流行している2020年3月の段階で見ると、パンデミックが起きた世界の描写の正確さに驚く。本作では香港で始まった呼吸器系の新興感染症が世界中に伝播し、大勢の人間を死に至らしめ、社会が混乱する様子が描かれる。

 医療崩壊、都市の閉鎖(ロックダウン)、物資の不足と暴動、ブロガーによる煽動など、最近起きている現実と比較して全く違和感がなく、2020年の世界を予言しているかのようである。勿論、細部に違いはあるが、リンクする部分があまりに多く、製作陣の仕事の質の高さが窺える。

 映画の構成は、アメリカのCDC(国家的な感染症対策センター)の職員、感染者の家族、ワクチン開発者など、並行的にいくつもの人物の視点が描かれる群像劇である。テンポがいいのか、演出がいいのか、全く飽きが来ずに最後まで見ることができた。いい役者が多く、音楽もクール。ソダーバーグ節ともいえる、抑制の効いた淡々とした展開が観ていてストレスを感じさせない。

 現実は映画を超えそうな様相であるが、今このタイミングでぜひ観るべきエンターテイメント作品だと思う。
  

2020年3月7日土曜日

28日後...


 世界的にコロナウィルスが流行っており、自分たちが生き延びるために何らかの示唆を得ようとして観た映画。2002年のイギリス映画。監督はトレインスポッティングのダニー・ボイル。

 妻曰く、ゾンビ映画とは感染症の映画であるという。この映画もまた、血液を介して感染し、人が正気を失い攻撃的になるウイルスが蔓延した世界の話である。人気の米ドラマ『ウォーキング・デッド』に通じるものがあるよう。いわゆる「ゾンビもの」として分類されることに異論の余地はないだろう。

 タイトルは感染症の発生から28日後の世界の意味である。病院で目覚めた男が人を探して外へ出ると、すでにロンドン市街は荒れ果てており…という話である。凶暴な狂者と化した人々の襲撃から逃れ、生き残った人たちとともに生きる道を探す。

 進むにつれ、御都合主義なお約束感のあるストーリー展開が気になるが、それは、ある意味、安心して観られる娯楽映画ともいえる。深い意味は見出せないが、これはこれで役割を果たしていて秀逸だという気もする。同監督の中では『ザ・ビーチ』よりは面白く、『127時間』と張るくらい。

 教訓はなんだろうか。ビタミンは貴重。車は大事。煮詰まれば正常な人さえも狂気を帯びてくる…というところか。まあ、時間つぶしに役立つ娯楽映画でしょう。
   

2020年3月6日金曜日

Birthday 君と重ねたモノローグ

 
 ミスチルの新曲。映画『ドラえもん のび太と新恐竜』のダブル主題歌。

Birthday
 2020年代最初のリリースであり、次なる方向性に対するバンドの決意を感じさせる一曲。『youthful days』と『優しい歌』を混ぜたようなエッセンス。焦燥感を掻き立てるバスドラムはビリー・アイリッシュ風。歌詞はもはや、細かいことはどうでもいい感じ。ロンドンでレコーディングしたらしい。甘酸っぱさを含みつつ、高揚感を感じながらじっくり浸れる。さすがの新境地。

君と重ねたモノローグ
 どこかで聴いたことがあるような、昔のアルバムやB面に入っていたような雰囲気のバラード。ラストのプログレっぽい遊び心が楽しい。長らくバンドとして育んできたものが、『ヒカリノアトリエで〜』のツアーなんかを経て結実した感。ハイテンポなBirhdayとの対比が美しい。


 両曲ともに、ドラえもん50周年映画の主題歌であり、桜井和寿が50歳になる年の歌であることにも注目したい。僕は僕でしかない、いくつになっても、変われなくて、と歌う桜井の芯の部分は全く変わらないし、バンドは着実に進化し続けている。息が長く、愛され続けるのも必然。何度でも繰り返してほしい。ドラえもん共々。
   

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