隆慶一郎の小説デビュー作。単行本の初版は昭和61年(1986年)。
舞台は江戸時代初期の明暦3年(1657年)。宮本武蔵の弟子として肥後(熊本)の山中で育った青年・松永誠一郎が、武蔵の遺言に従い、後に江戸を代表する色街となる新吉原を訪れるところから物語が始まる。庄司甚右衛門という人物を探していたところ、偶然出会った幻斎という異形の老人に案内され、色街を生きる人々や文化を知るとともに、朝廷や江戸幕府を巻き込む巨大な陰謀に巻き込まれていく、というのが筋。
娯楽小説としてテンポよく進みながら、当時の文化風俗の紹介、資料文献を参照する歴史考証、迫真の戦闘シーン、官能小説のような妖艶な性描写、拷問の凄惨な描写、など、贅沢な作りになっている。一見するとよくある時代ものの伝奇小説だが、歴史的事実に基づく著者の吉原成立に関するビッグアイデアが底にあり、単なる剣豪活劇にとどまらない深い味わいを残す。
ネットで考察を探していたところ、松岡正剛氏が言及していた(リンク)が、網野善彦という中世日本史の研究者の理論が底にあるようである。人を支配下に置き自由を奪おうとする幕府という権力機構と、自由と遊興を愛する漂白の民との戦いの歴史があるらしい(そう考えるとワンピースも近い)。公界、無縁、道々の輩、遊女や非人などの被差別民についても学びたくなった。学校の歴史の教科書には載っていない、国や歴史を動かしてきた衆生の力動について学ぶことができるように思える。
鬼滅のアニメの吉原編が秋公開に迫っているのに加え、『一夢庵風流紀』が面白かったので手に取ってみたが、もっと隆慶一郎作品を読みたくなった。日本の時代物を通して、無慈悲な世界と、理想的な生き様を学べる。こういう魂の滋養のような娯楽作品を読んで生きていきたい。
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