Mr.Children 20作目のアルバム。12月2日発売。全10曲。
新型コロナウイルス流行でロックダウンする前のロンドンでレコーディングしていたというのが話題の作品。グラミー賞受賞のエンジニアであるスティーブ・フィッツモーリスらのチームと組み、生の楽器が奏でるアナログサウンドを突き詰め、純粋に「鳴らすこと」に徹した感がある。革新的な手法はないが、聴こえる音は新しく、欲や執着から解き放たれ、純粋にいい音を鳴らそうという美意識が感じられる。アートワークは新進気鋭のクリエイティブチーム(らしい)のPERIMETRON。
オープニングナンバーの#1 DANCING SHOESの浮遊感のあるサウンドは『Q』の頃の雰囲気を思い出す。透明感とポップさが同居する#2 Brand new planet、疾走感のある#3 Tunr over?からの緩急で、ダウンテンポな#4 君と重ねたモノローグ、#5 loss timeで浸れる。静けさの中にダイナミクスが同居する#6 Documentary filmを経て、#7 birthdayの躍動がいっそう際立つ。シングル曲もアルバムの流れの中で現れると、単独で聴くのとはまた違った味わいで心地よい。そして後半に現れる大人の色恋の質感が生々しい#8 others、気負わずに生を肯定する#9 the song of praise。最後は食後のデザートのように甘く、物憂げで、諦観が漂う#10 memoriesで終わる。
ドキュメンタリーのDVDやYoutubeでのインタビューを観ると、メンバーの老いを感じるが、それを自覚した上で奏でられた作品であると、彼ら自身が語っている。アナログサウンドと死を意識する世界観は1996年発表の『深海』が近いが、それから20年の成熟を経て、回帰した境地が本作である。やがて訪れる死や終末を受け入れ、それを踏まえた上での”It’s my birthday!”なのだ。死の匂いの中で生が際立つアルバム、と言えるかもしれない。『SOUNDTRACKS』というタイトルは、日常を生きる誰かに寄り添う音楽でありたいという願いが込められている。
評論家筋は最高傑作と褒め称えているが、実際、確かに、聴き込むほどに発見があり、尽きない味わいがある。繰り返し聴き込んで、新たな発見を続けていきたい。コロナ禍と経済禍に見舞われ、いろいろあった2020年の終わりに、この音が聴ける幸福を噛みしめながら。
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