2020年10月10日土曜日

そばもん ニッポン蕎麦行脚


 蕎麦の話だけで全20巻、9年にわたり書き続けられた力作である。2008年から2016年までビッグコミックにて連載。

 チャラついたイケメンは出てこない。歴史の重みが風格として漂う職人がヒーローとして描かれる。近年の漫画作品には不細工な顔の人間があまり出てこなくて私は不満なのだが(大衆の自己醜形恐怖や無自覚なルッキズムによる他者の排斥を反映しているようで、時代の病理を感じるのだが)、本作にはそれがない。「さの字」のような情けない人物の顔つき、人となり、実家の背景などに代表される、リアリティのある人物造形が良い。

 作者の方も制作を通して蕎麦の世界の深みにはまっていったようで、後半は蕎麦の歴史や製法に関しての探求色が強くなる。専門家が監修し、プロの絵柄付きでストーリーを通して学べる本作は、蕎麦の入門書であり、かつ文化体系の解説書としての価値を持つだろう。カルチャーとしての蕎麦の魅力が随所に詰まっている。そして何より、蕎麦が美味しそうだ。

 これはかなりのお気に入り作品となった。蕎麦屋に通いつつ、これから何度もじっくり読み返していきたい。
   

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