2020年7月20日月曜日

この町ではひとり


 山本さほが神戸で暮らしていた頃の暗黒時代を描く漫画。2020年6月発売。

 横浜で青春時代を送っていた作者が、美大受験の失敗を経て、なかば現実逃避のために特に縁のない神戸での生活を始める。しかし、アウェーの街で友人ができず、変な人にカラまれ、バイト先でもストレスを抱え、次第に精神が侵されていく過程が描かれる。

 作中にあるような、ホームの人間関係と切り離された人間の孤独には普遍性がある。同じような体験をした若者はいつの時代にも、世界中のいたるところに、無数にいることであろう。かくいう私もその一人で、この本で描かれているような体験を大学の入学後に数年ほど味わった。周りに人は沢山いるはずだが、ウマが合う友人や、心を開ける相手が得られなければ、世界は輝きを失い、閉塞感に満ちた時間が延々と続く。不運な条件が重なると、この地獄は誰しもに訪れる可能性がある。あの頃の地獄を、この漫画を読んで少し追体験した。

 これまで読んだ山本さほ漫画では最も鬱要素が強いが、個人的には一番好きな作品である。こうした闇を抱え、直視し、受け入れてこそ、人は本当の意味で優しく、面白くなれるのだと思う。山本さほに期待しているのはそういう部分である。
   

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