2019年8月7日水曜日

剣樹抄


 冲方丁の時代小説。単行本は2019年7月発売。電子書籍リーダーDolyにて読了。

 世界史上の三大火事にも数えられるとという江戸時代の明暦の大火(西暦1657年)から物語が始まる。主人公である無宿人の孤児・六維了助(むい りょうすけ)の成長物語であるとともに、『光圀伝』に登場する若き豪傑・水戸光圀(みと みつくに)が重要な役どころとして登場する。

 筋としては、幕府の命を受けた光圀や中山勘解由らが、捨て子を拾って組織した隠密組織の拾人衆(じゅうにんしゅう)とともに、江戸の火付け盗賊の集団との戦いを描く。作者の冲方丁がトークショーで「大江戸シュピーゲル」と評していたという噂だが、そういわれると実際その通りだと腑に落ちる。シュピーゲルシリーズと同じく、傷を負った子供達が戦いの中で過去を克服し、より実存的な生に目覚め、社会に戻っていく話、である。

 作者がこれまでの作品で育み、培ってきた知識や技巧を融合させるとこうなるのであろうと考えると納得。司馬遼太郎を彷彿とさせる、江戸の文化風俗や史実に関するトリビアの紹介が混ざるあたり新境地だろうか。続編に期待。
   

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