2018年7月20日金曜日

戦の国


 冲方丁が描く連作短編集。2017年作品。戦国時代の桶狭間の戦いから江戸時代初期の大阪城夏の陣までの約55年を、6人の武将をメインに据えてそれぞれの視点から描く。登場するのは織田信長(覇舞踊)、上杉謙信(五宝の矛)、明智光秀(純白き鬼札)、大谷吉継(燃ゆる病葉)、小早川秀秋(真紅の米)、豊臣秀頼(黄金児)。

 それぞれ基本的な構成としては、主人公個人の歴史を描いたのちに人生最大の決戦の場面が描かれる。時代背景、置かれた状況、個人の心性や信念など、主人公の物語性を最大限に引き出したのちに命をかけた激しい戦に挑む流れは、結果を知っていても引き込まれて胸が熱くなる。娯楽作品として秀逸である。

 電子書籍で読んだが、販促用に無料で入手できる解説記事も含め、非常によかった。自分の心の成分として、冲方丁の視点が生きているのだと実感した。実存主義的な、人の世の理と個人の限界を受け入れた上でのポジティブな姿勢。命を使い尽くして生きていきたいという気持ち。そういう作者の理想の断片が、各作品の主人公たちに宿っている。いつかまた読みたい。
   

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