2016年12月11日日曜日

高い城の男


 鬼才フィリップ・K・ディックの最高傑作との誉れ高い歴史SF。1963年度ヒューゴー賞受賞。カズレーザーが「読書芸人」で推薦していた作品でもある。

 第二次世界大戦で枢軸国側(日本やドイツ)が勝っていたらどうなっていたか…という世界の話が、アメリカに暮らす複数人の視点から描かれる。一見、SF要素は少ないが、異なる世界線を描いているため改変歴史SFのジャンルに入る。逆の立場から我々が暮らす現実社会の世界線を描くメタな作中作(イナゴ身重く横たわる)を巡る説明でそのように言及している。

 世界を制覇するのはドイツ民族と日本人。ドイツは宇宙開発し、日本人は独自の文化様式で恐れ敬われる。アメリカの白人は卑屈に振るまい、戦勝国の民族の機嫌をうかがう。滑稽で奇矯に映る各人の振る舞いが精密に描かれ、歴史と社会への強烈な風刺になっている。

 初読での理解はきっと難しい。が、繰り返し読む価値がある。人は歴史の影響から逃れられない。運命に翻弄されながら生きる個人の生を考える。またいつか読み返したい。
   

0 件のコメント:

コメントを投稿