2016年9月13日火曜日

放浪の天才数学者エルデシュ


 20世紀が生んだ最強の数学オタク、ポール・エルデシュの評伝。ほとんど定宿をもたず、世界中の数学者のもとを泊まり歩いては研究を続け、死ぬまでに約1500本の論文(多くは共著)を執筆した。死ぬまでの10年はアンフェタミン(覚醒剤)を内服して1日19時間数学に没頭して暮したという。

 一見、他人の迷惑を屁とも思わない変人だが、心は純粋で慈悲深く、多くの人に愛されていたのが本書に出てくる証言の随所から伝わる。ハンガリー生まれのユダヤ人であり、ナチのホロコースト、ソ連のハンガリー侵攻、米ソの冷戦など世界情勢に翻弄されながらも、数学の真理を一心に追い求め、数学仲間との交流を楽しみ、母との時間を大切にし、無条件に子供を愛した。

 イチローの野球や、手塚治虫にとっての漫画みたいに、人生のすべてをかけて何かを追い求めて生きる人の姿は格好いい。愛があり、情熱があり、歓びがあり、その生き方には嫉妬や侮蔑等、人間の醜い感情が入り込む余地はない。こんな人生を送りたいもんだ、と筆者は常々思う。

 『フェルマーの最終定理』も面白かったが、己の道を突き進む数学者の生き様には何ともいえない魅力がある。とりわけ、彼のような突き抜けた変態的天才の話は読んでいて楽しい。そして、発作的に数学がやりたくなる。
   
   

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