暗いキモメンの修行僧が金閣寺を燃やす話。
純粋に娯楽作品として面白い。偏執的な美の観念、鬱屈した青年の心情、世俗的な現実と抽象的観念の対立など、哲学小説としても高品質だが、陰気で暗い情熱を育むコミュ障な主人公のキモさやクソ野郎ぶりが単純に読んでいて楽しい。脇を固める柏木や老師の醜悪な振る舞いもいい。
本作の主人公の独白の中には、通り魔や大量殺人など無差別テロを起こす人間に共通する普遍的な心境が描かれている。黒子のバスケ脅迫の犯人、秋葉原の通り魔殺人、地下アイドル刺傷事件がとりあえず頭に浮かんだ。うまく他人とコミュニケートできず、溜め込んでいた怨念がある日突然発露し、行動化し、神聖視した対象を蹂躙し、破壊する。ここでは、その個人的な美の象徴として鹿苑寺の金閣が選ばれる。
非リア充の根暗な男が突発的に起こす凶悪犯罪を見る度、この小説を思い出すだろう。かつては愛し憧れた対象を、身勝手な自前の理論のために傷つけ破壊する。いつの時代も、世界中のいろんな場所で一定数起きうる定型である。
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