2016年6月19日日曜日

シャーロック・ホームズの思考術


「人間の頭脳というものは、もともと小さな空っぽの屋根裏部屋みたいなもので、自分の好きな家具だけをしまっておくようにできているんだ。ところが、愚かな人間は、手当たりしだい、どんながらくたでも片っ端から詰め込むから、役に立つ知識は、はみ出してしまうか、さもなければ、ほかのものとごちゃまぜになって、いざ取り出そうとする場合、それがどこにあるのか、わからなくなってしまうんだ。しかし、訓練を積んだ専門家は、頭脳の屋根裏部屋に何を詰め込むかについて、最新の注意を払う」
『緋色の研究』

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 心理学者が本気出してホームズの能力の本質を解説した本。100年以上前にコナン・ドイルが創造した名探偵(シャーロック・ホームズシリーズの初出は1887年)は、今なお世界中の読者を魅了し続けており、2010年代の現代社会にも通用する美徳を備えている、というのが本書の作者の主張。「その観察眼と洞察力はいかにして生まれるか?」というのを、作者は様々な実験心理学や脳科学の理論を援用しながら説明する。

 正直、この本は内容が冗長で今イチ結論が曖昧なんだが、大事なのは「意識的に脳の状態をメンテナンスする」ということ。世の偏見や日々の習慣の影響を受けサボりがちな頭脳の危うさを意識し(作者はそんな凡人の思考回路をワトソン・システムと呼ぶ)、己の思考力を質の高い状態(ホームズ・システム)に保つということ。「事件」を「病める心」に置き換えれば精神科医療に通ずる。大切なのは質の高い観察、想像、推理、実行。頭脳をフル回転させて誤謬を排除する習慣をもてば、人はどの時点からでも高いパフォーマンスを発揮する個体になることができる。ボンクラな医者はルーチンのぬるま湯に浸かり、思考回路のメンテナンスをサボっている。

 シリーズを読みたくなったので、そのうち感想を書くと思う。
   

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