2015年4月29日水曜日

イヴ・サンローラン


 世界的なデザイナーであるイヴ・サン・ローランの半自伝的な映画。

 神経質そうなフランス男が不特定多数との性愛とドラッグでグチャグチャになりながら美を追求し、いかにして「モードの帝王」と呼ばれるに至ったかという話である。

 「なんで芸術家って性的逸脱とドラッグでグチャグチャになるのか?」と筆者はいつも考えて生きてきたが、それに対する個人的な回答は「苦痛を抱えて生きる人が鎮痛を求めた結果である」というもの。

 イヴ・サン・ローランは幼少期より同性愛嗜好があり、「ホモと馬鹿にされていじめられた」と作中で語る。戦争のストレスで神経衰弱となり精神病院に入院させられたりもする。そんな彼にとって、美しい造形を生み出し、愛でるという享楽は生きていく上での苦しみを忘れさせてくれるものだったに違いない。痛みをかき消すために性とドラッグを求める、というのもまた、いつの時代も精神的苦痛を抱えた人々がしばしば辿る転帰である。同様の機序により、耽美主義は生きていく苦痛を鎮めるために辿り着く必然なのである、ということを考え、ブライアン・ウィルソンにとっての『ペットサウンズ』を思い出した。美しいデザインには生の苦痛を癒す魔法があるのである。

 基本は史実に忠実な内容で、若き天才芸術家の苦悩と明暗の話。映像と音楽は美しく、品良く抑制が効いている。綺麗事に仕上げず、偉大な芸術家の軌跡を描いた作品なのだと思う。
   

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