2015年3月2日月曜日

闇金ウシジマくん


 初めて読んでみたが、これはグレッグ・イーガンの小説と並び、よき精神科医になるための必読書だと思った。序盤は非合法の金貸し(通称”闇金”)を経営する丑嶋君の仕事の話だが、実際は闇金を借りに来る顧客の人間模様がメイン。中盤以降は時事ネタが主で、ネットカフェ難民や与沢翼のビジネスの話も出て来る。

 端的に言ってしまえば「底辺の人たち」の人間劇場である。池袋ウエストゲートパークからロマンスと勧善懲悪とオシャレな要素を抜いたような内容で、パチンコや風俗で借金を背負う自制心の弱い人たちが、社会的強者の悪い奴らにひたすら搾取される話が続く。人外の鬼畜とも言うべき悪漢が多数登場し、極悪非道な拷問や追い込みの描写がひたすらエグい。登場人物には実際にモデルがいるらしいという噂がインターネット上で散見され、東京は恐ろしい場所だと北海道出身の筆者のような人間に確信させ、生涯地方在住を決意させるほどの抑止力がある。

 陰惨な話が多いが、娯楽漫画としてのバランスを保つためか、ささやかな救いも提示される。阿鼻叫喚の衆生の暮らしを追体験することで、堕落論的な達観に至り、ウシジマ君のようなハードボイルドな境地に辿り着く。その容赦のなさと要求される思弁は、現代人のための仏教説話とさえ思える。

 心の専門家になりたい人には『アラサーちゃん』『しあわせの理由』と並び、この漫画の通読を奨める。

   

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