2014年9月27日土曜日

グランブルー


 海にイカれた男達の話。フランス人とイタリア人の男が素潜りに挑む。舞台はシチリア島。ニューヨーク出身のアメリカ女性の色恋もあるが、メインは海。

 ストーリーに関しては「この映画を好きだと言う人間を信用しない」と嫁に言わしめるほどの思い切りの良さ(?)があり好みが別れる所だが、映像を通してシチリア島の穏やかで暖かい空気や雄大な海の美しさを味わえる。ガキ大将がそのまま大人になったジャン=レノ扮する幼馴染みエンゾの雰囲気が最高にいい。

 フランス人監督リュック・ベッソンによるフランス人好みの映画。
    

2014年9月26日金曜日

ブルーベルベット


 ”It's a strange world, isn’t it?“
(この世界は不思議な所ね)



 デイヴィッド・リンチ監督・脚本のサイコホラー。アメリカの田舎町で、青年が野原で切り取られた人間の耳を見つけた所から物語が始まる。

 登場人物の倒錯した性愛、グロテスクさと官能が入り混じる不気味な空気はマルホランドドライブと同様。確信犯的に生理的嫌悪感を催させつつ、人間性の深く暗い部分に潜む欲望と狂気を提示する。華やかなスクールライフや昼下がりのティータイムと、サディスティックな暴力を含む性交のシーンが対照的。

 芸術に興味のある人は必見。心温まる話が好きな人には、あまりお勧めしない。
   

2014年9月25日木曜日

波の上の魔術師


 7年ぶりくらいに読み返した。老いた相場師が先が見えず無為に日々を送る若者にマーケットのイロハを伝授し、個人的な復讐のために大手都市銀行に勝負を挑む話。

 主人公の造形は限りなく同作者の『池袋ウエストゲートパーク』に近く、TOKIOの長瀬智也の野性の獣のような鋭い視線の若者の像が浮かぶ(テレビドラマ版では実際に演じている)。一人称の語り口や学歴社会に馴染めない醒めた態度と観察眼、女性や芸術的意匠への素朴な審美眼もそう。作者石田衣良の理想の自己像っていうことなんだろう。

 舞台となる1998年はバブル崩壊後の日本の金融恐慌のまっただ中。1997年末に拓殖銀行と山一証券が倒産し、この年以降自殺者は15年連続で3万人を超える。経済的な困窮が人を自死に至らしめる、という普遍的な人間の真理が作品の中にも描かれ、筆者が個人的に注目する日本経済の混迷期の空気が感じられたのが再読して得られた一番の収穫であった。

 株式相場と復讐劇を主軸に、ロマンスあり、クライムあり、成長あり、世代を超えた交流があり、コンパクトにまとめられ手っ取り早く読めるエンターテイメントに仕上がっている。秋の話なので、秋の夜長の読書にも最適。誰にでもお勧めできる佳作。
   

2014年9月16日火曜日

チェ39歳 別れの手紙


 キューバでの革命の成功後、ゲバラが「革命の輸出」のためにボリビアに渡航し、斃れるまでを描いたスティーブン・ソダーバーグ監督のチェ・ゲバラの伝記映画の後編。

 過剰な演出を排し、晩年のゲバラが見たであろう光景が淡々と流れていく。ボリビアのジャングルの行軍を続ける中で、疲労と空腹に苛まれ、敵の銃弾で仲間は次々と死傷していく。そんな過酷な状況下、持病の喘息に苦しみながらも、物静かに佇み、言葉少なに理想を説き、仲間を鼓舞する。高い理想に生きたゲバラの姿は深い人間愛に裏打ちされた威厳に溢れている。

 史実を知らないとストーリーの理解が深まらないと思われるため、ゲバラやキューバ革命に興味がない人にはあまりお勧めしない。いずれかに愛着があるならば、説明が過ぎず、小津安二郎作品に通じる会話中の「間」の中にある思索を巡らす余地を楽しめる。成熟した大人の映画。
   

2014年9月8日月曜日

ユービック


 フィリップ・K・ディックのSF小説。1969年作品。

 テレパシーや予知など能力を持つ超能力者たちと、その能力を無効化する能力をもつ不活性者たちが戦いを繰り広げる時代。不活性者達が超能力者達との決戦のために乗り込んだ月で敵の罠が待っていて、、、という作品。

 難解なワードが怒濤のごとく現れるためSF初心者にはハードルが高めで、雰囲気に慣れるまでは心の強さが必要。舞台装置はSFだが、主人公たちが巻き込まれた奇怪な現象(逆行する時間、死んだはずの雇い主からのメッセージ)の謎を解くミステリ要素が強い。ハヤカワSF文庫の後ろのカバーのあらすじで激しくネタバレするので先に読まないよう注意が必要。

 時間、命、虚構と現実など、作品の主題に言及する作者のエッセイが巻末の解説で紹介されているが、激しく哲学的で理解は困難だった。とは言え作品自体、難解な一方で誰が読んでも面白いエンターテイメント性がある。認識を揺さぶられながら核心に近づいていく感覚。そういうのが楽しめる。