2014年8月17日日曜日

ウルフ・オブ・ウォールストリート(小説)


 レオナルド・ディカプリオ主演の映画の原作。主人公(原作者)は背の低いユダヤ人であるという点が映画と異なるが、あとは大体映画で忠実に再現されている通り。

 証券会社を立ち上げ、合法すれすれで(実際にはかなり非合法な方法で)荒稼ぎした金でドラッグとセックスを派手に堪能する、という大変不道徳な話だが、第一線で働く金融家の思考回路を知るためには大変有意義な手記である。訳者の解説では半分くらいは誇張している可能性が高いそうだが、その辺も含めて頭脳と口車で金を稼ぐ種類の人間の行動様式なんだろう。

 最低なことばかりしているが、親子の愛情が残っているあたり違和感が残る部分でもあり、ぎりぎりの部分で残されたリアルな人間の本質なんだろうと思う。坂口安吾『堕落論』と合わせて読みたい。


   

ラブ&ドラッグ


 世界一の製薬会社ファイザーのMR(製薬会社の営業)が肉体関係になった難病の女性に恋する話。同社の看板商品バイアグラTMのステルスマーケティングだという説もある(筆者の個人的な見解)。
 
 基本的にはラブコメ。実際にMRに勧められてアン・ハサウェイのラブシーンが観たいがために観た映画だが、MRの思考様式や業務内容の参考になった。勿論、アン・ハサウェイの裸も良かった。

 その他特記すべき点はないが、パーキンソン病の勉強のために医療系の学生に勧めるのはありかもしれない、と思った。
   

グッドウィルハンティング/旅立ち


 先日亡くなったロビン・ウィリアムズが出演している映画が観たくなったので、10年ぶりくらいに観返した映画。ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学(MIT)のある学問の街ボストンを舞台に、心に傷を負った天才少年ウィル・ハンティングと妻を失った心理学者の交流を描くヒューマンドラマである。

 押し付けがましさがなく、大人になって世間擦れした目から見てもいい話。ロビン・ウィリアムスの人間味溢れる暖かい大人の男のオーラが、この物語から下手な打算や説教臭さを除去している。

 そして、この作品は若い魂が生み出したものであるという事実も味わい深い。ハーバード大学在学中のマット・デイモンと幼馴染みのベン・アフレックが脚本を書き、俳優として出演し、興行的にも成功してアカデミー賞受賞(脚本賞、助演男優賞)に至った出世作としても有名である。世俗的な欲望や諦観に染まる前の、純粋な人生への理想と情熱がある。大人になってから観るといっそうじわじわくる。

 観終わって豊かな気持ちになる。いい話だ。

   

2014年8月12日火曜日

座頭市


 名優、勝新太郎が生涯かけて練ったライフワーク。
 盲目の俠客「座頭市」が悪を斬る。
 晩年を飾る1989年の作品。

 殺陣(斬り合いのシーン)がハリウッド映画にはない迫真のシーン。
 鉄火場の雰囲気や、友人と旧交を温めるシーンなど、戦い以外もいい感じ。

 圧倒的な勝新太郎の役者オーラを感じるべき映画。
   

架空の球を追う


 読みながら自分が一番好きな女性作家は森絵都だと再確認した。
 様々な日常の中で、何気ない人間同士の絆を描く短編集。11編入り。

 お気に入りは、30女の女子会の機微を描く『銀座か、あるいは新宿か』、夕方のスーパーで買い物する女の屈折した人間観察を描く『パパイヤと五家宝』、スペインの空港での老夫婦の一幕を描く『彼らが失ったものと失わなかったもの』。

 森絵都の作風を誰かに紹介する際には「大人向けのさくらももこ」と私は形容することが多い。世慣れして成熟した冷笑的な目線と、その下に見え隠れする愛がある感じ。溢れるアイデアを抑えた筆致で制御しつつ描き、くすっとくる笑いもじわりとくる感動路線もいい感じにまとめる。

 直木賞受賞の短編集『風に舞い上がるビニールシート』がもっと細切れになってコンパクトな小品が集まっているような作品。読みながら没頭でき、読後感もすっきり。飛行機での移動に丁度良かった。
    

2014年8月2日土曜日

アイズワイドシャット


 とてつもないエロに期待して、ちょっとだけがっかりする映画。

 それはトム・クルーズとニコール・キッドマンという世界最高峰の美貌を持つ夫婦(当時)の性生活を描く、という宣伝からして始まっている、と阿部和重が評論に書いていた(と思う)。マンハッタンの高級コンドミニアム(マンション)に住み、画廊を経営する妻、娘と共に瀟洒な暮らしを送る内科医の主人公は、ある夜マリファナを吸って吐露した妻のエロい妄想の話を聞いてショックを受け、夜の街に飛び出してとびっきりのエロいことをしようとするが、、、という話。

 官能的な快楽への憧憬と、豊かで安定した暮らしを失うリスク。恐怖と良心の狭間を彷徨い歩き、少しだけ失望して、成熟する。大人になって観るとその味が分かる。奇才スタンリー・キューブリックの遺作。

 ニコール・キッドマンの美しい尻と妖艶な仮装乱交パーティーのシーンがハイライト。
 結構なお気に入りで、何度も見返しています。
   

グラップラー刃牙


 範馬刃牙という17歳の少年が最強の男を目指す格闘漫画。「地上最強の生物」の異名をもつ父親、範馬勇次郎の影を追い、東京ドームの地下闘技場で繰り広げられる武闘大会の頂点を目指す。

 突っ込みどころは沢山あるが、読んでいて熱くなるのは事実。最強を自負する男達が次々と登場し、あっさり喰われ、より強き者の餌になる。理不尽でグロテスクな程に残虐な暴力の応酬が延々と続くだけのストーリーだが、そのシンプルな娯楽性が読んでいるとだんだんクセになってくる。個人的には喧嘩師ヤクザ、花山薫が一番好き。

 暴力という原始的な娯楽の魅力に気付かされる。何気に哲学的な漫画。