2013年12月31日火曜日

narrative of the year 2013


1位 ヘミングウェイごっこ(小説)
 ヘミングウェイファンにはたまらない小ネタにニヤニヤし、結末の作者の真意に思い至り胸にズシリと響いた。今年、読んでいて一番幸せだった。

2位 フェルマーの最終定理(ノンフィクション)
 時代を超えて受け継がれる意志の物語。こういうのかなり好き。

3位 スローターハウス5(小説)
 初めてのカート・ヴォネガット。小説って自由だな、と気付かされた。

4位 半沢直樹(テレビドラマ)
 勧善懲悪のカタルシス。役者のオーラがそれを増強する。
 
5位 マルホランドドライブ(映画)
 妖しさと幻惑するムード。初見じゃ意味不明すぎる構成も好き。

6位 沈まぬ太陽(小説)
 大企業の腐敗の勉強になった。

7位 風立ちぬ(映画)
 普通にいい話。

8位 姑獲鳥の夏(小説)
 シリーズの続きが読みたい。

9位 スプライトシュピーゲル(小説)
 最終的にはオイレンよりこっちのが好き。

10位 saving 10,000(映画)
 primitiveな情熱の大切さを再認識させてくれた。
   



2013年12月21日土曜日

Mr.Children [(an imitation)blood orange] Tour


 前にも書いたが、ブラッドオレンジは「震災後の祈り」がテーマのアルバムである。そのツアーの岩手、盛岡の会場でのライブが収録されたblu-ray。

 MCでも「震災」という単語は直接に口に出さないが、選曲で分かる。過去と未来と交信する男の「悲しい過去が見えます」に始まり、happy songやMarshmallow dayの「幸せな歌を歌ってこう!」ということなのだ。イミテーションの木以降の後半が圧巻だった。

 悲しみを知り、歓びを歌う。それを気負わずに楽しみながら。
 そういうattitude(態度)がresilience(乗り越える力)を生み出す。
 きっとそういうメッセージ。
   

2013年12月19日木曜日

夜と霧


 原題は”…trotzdem Ja zum Leben sagen : Ein Psychologe erlebt das Konzentrationslager ”(それでも人生にイエスと言う: 心理学者、強制収容所を体験する)
 精神科医であった筆者が「極限の状況にあるとき、人はどのように生きるべきか」という実存的な命題について自身の体験をもとに考察した本。程度の差こそあれ、自由を奪われ、収容所で苦役を強いられるような時期を経験した者ならば、読んできっと響く箇所があるはず。

・・・
 収容所の日々、いや時々刻々は、内心の決断を迫る状況また状況の連続だった。人間の独自性、つまり精神の自由などいつでも奪えるのだと威嚇し、自由も尊厳も放棄し外的な条件に弄ばれるたんなるモノとなりはて、「典型的な」被収容者へと焼き直されたほうが身のためだと誘惑する環境の力にひざまずいて堕落に甘んじるか、あるいは拒否するか、という決断だ。 
 この究極の観点に立てば、たとえカロリーの乏しい食事や睡眠不足、さらにはさまざまな精神的「コンプレックス」をひきあいにして、あの堕落は典型的な収容所心理だったと正当化できるとしても、それでもなお、いくら強制収容所の被収容者の精神的な反応といっても、やはり一定の身体的、精神的、社会的条件をあたえればおのずとあらわれる以上のなにかだったとしないわけにはいかないのだ。そこからは、人間の内面になにが起こったのか、収容所はその人間のどんな本性をあらわにしたかが、内心の決断の結果としてまざまざと見えてくる。つまり人間はひとりひとり、このような状況にあってもなお、収容所に入れられた自分がどのような精神的存在になるかについて、なんらかの決断を下せるのだ。典型的な「被収容者」になるか、あるいは収容所にいてもなお人間として踏みとどまり、おのれの尊厳を守る人間になるかは、自分自身が決めることなのだ。
  

2013年12月15日日曜日

はなとゆめ


 舞台は平安時代の京。皇后である中宮定子(一条天皇の妻)の女房(仕える人)であった清少納言が、何故「枕草子」を書くに至ったか。華やかな宮中の遊びや藤原家を中心とする政争など、内裏(宮中)での日々が史実を元に丹念に描かれ、一つの対象を恋い慕う女性の心情の軌跡が一人称で綴られる。

 それまで和歌や漢詩が主流であった文学の世界において、日々の雑感を自由に綴る枕草子のような随筆は画期的な表現形式であった。ユーモアや興趣を交えて、才人清少納言が己の感性のままに赤裸々に綴るエッセイは当時の宮中で大好評を博したという。

 本編も枕草子も共通して、悲嘆や恨み言を良しとしない高貴な品性が全編を貫いている。敬愛する定子が政争に巻き込まれ没落していく過酷な状況の中にあっても、清少納言は美しいものだけを書き残そうとした。

 時代背景の理解がないと最初はとっつきづらいが、慣れるとサクサク進む。作者冲方丁は何故この題材を選んだのか考えながら読んでいたが、終盤にくるとなんとなく主意が見えてきた。美しい文章を書き残すことは祈りなのだ。かつて在ったものを忘れず、その記憶を慈しみ、未来に伝えるための。宮中に確かにあった華(はな)が千年先も続くように。
   

2013年12月14日土曜日

酒とバラの日々


 アルコール依存症になる夫婦の話。
 男は仕事の不満の捌け口に、女は寂しさを紛らわすために、酒に溺れる。
 そして鎮痛の手段としての様々な快楽の例に漏れず、制御が効かず破滅していく。
 離脱症状や支援団体の描写もリアルで、アルコール依存症の実像が分かる。

 主人公が酒を飲む前に呟くフレーズ"Magic time"はしばらく自分の中で流行るだろう。