フェルマーの最終定理
17世紀に生み出された数学史上最大の難問「フェルマーの最終定理」に挑む数学者たちの物語。
「私はこの命題の真に驚くべき証明をもっているが、余白が狭すぎるのでここに記すことはできない」という有名なフェルマーの走り書きが生みだしたこの問題は、命題自体はシンプルであるにも関わらず、300年以上誰にも証明することができなかった。幾世代もの野心的な数学者達が挑み、偉大な天才たちが立ち向かったにもかかわらず、彼らは皆、力及ばずして苦汁を舐めることとなった。そもそも解答が存在するかも分からない。そんな悪名高い命題の証明という悲願が達成された、1993年のケンブリッジでの講演から物語は始まる。
先立ってBBCで放映されたドキュメンタリー番組を基に書かれたこの本は、20世紀の数学者アンドリュー・ワイルズの挑戦の物語でもあるが、その軌跡は紀元前の太古の昔から受け継がれる意思の物語でもあった。古代ギリシアのピュタゴラス教団の研究から、第二次大戦後の谷山-志村予想まで。時代や場所を超えて、多くの先人たちが数論に挑み、残してきた財産を掘り起こし、現代に甦らせつつ、20世紀の最新の知見と共に組み合わせて、緻密で膨大な理論を編み上げていく。時空を超えた数学者達の願いが一点に集積し、史上最大のエニグマへの解答を導き出していく過程を体感できる。
受け継がれる意思と、その成就の物語。孤独と不信に打ち勝ち、挫折を克服する挑戦の物語でもある。歴代の数学者達のプロフィールや第二次大戦時の暗号解読に応用された素数の話など、本筋を肉付けする時代背景も味わい深い。
今年読んだ本の中では最高レベルのカタルシス。
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