2012年11月28日水曜日

[(an imitation) blood orange]


 ミスチルの新譜が出る度、ユダヤ人がタルムードの解釈に挑むくらいの情熱で、その真意を汲み取ろうとしてしまう。どうしてこの言葉を選んだか。この音なのか。この順番なのか。考えてる時間がたまらなく好きで。

 このアルバムのテーマは「祈り」である。

 収録されているのは震災後に生まれた楽曲群。
 戯言(たわごと)というフレーズが何度も登場する。

 基本的な態度として己の有限性を意識している。
 自分にできることに限界があることを知っている。
 所詮イミテーションだし、道化ぶったりもする。
 それを自覚した上で、精一杯、表現する。

 説教ぶらない。PVもテクノロジーで誤摩化さない。
 美しすぎない。自分を偽らない。

 #6イミテーションの木、#10 Happy Songがこのアルバムの意図を説明している。
 #2 Marshmallow day、#9 過去と未来と交信する男が最高。

 自分の道を行く者を励ますメッセージ。
 遊び心と真摯さを大事にしながら、伝えようとしている。

 聴いたらもっと頑張れる。そういうのが好き。
     

2012年11月25日日曜日

リアル


 高校入るときに1巻が出て、それから毎年秋くらいに新刊が出る。
 成長の過程で、自分なりに発見したささやかな悟りみたいなもんとリンクするのが嬉しかった。

 何の話か?
 車イスバスケの話。
 野宮、戸川、高橋の3人を軸に進んでゆく群像劇。

 人と人が繋がり、化学反応が生まれる。
 各人与えられた条件は異なり、それぞれに限界はあるけど、それを突破しようとする。

 続いて行く道の話。 
 限界を超えようとする人の話。
 人と人が出逢い、変わっていく人の話。
 全てがバスケットボールを軸に収束していく。

 読むと頑張りたくなる。自分の道を。
  

2012年11月23日金曜日

東京怪童


 脳に障害をもつ子供たちの漫画。
 全3巻。

 事故の後遺症で心に浮かんだものを全て口に出してしまうハシ。
 性感発作で時や場所を選ばず絶頂に達してしまう花。
 人間だけが認識できず、人のいない世界を生きる少女マリ。
 神様や宇宙人と交信できると信じている英雄。
 
 この話に「まともな人」は一人も出てこない。
 作中作のハシの漫画は異形者の悲哀、懊悩、願望、諦観がごた混ぜになって表現されている。

 ゴッホの絵にインスピレーションを受けているらしい。
 糸杉とか星月夜とか出てくる。
  

2012年11月17日土曜日

IN RAINBOWS


 radioheadは説明しすぎない。
 難解な歌詞。
 新奇性に満ちた音。
 この作品の「虹」が何を意味しているか、明確な答えは示されない。

 音楽性としてはアコースティックなバンドサウンドとエレクトロニカの融合(らしい)。生の楽器の音と電子音が調和し、耳触りがよい。デビュー当初のアナログなギターサウンドとKID Aのデジタルなシンセサイザーミュージック、両方の極を経て、止揚し、表現はその次のステージにある。

 ここには諦観がある。
 もう、引き返せないところへ迷い込んでしまった男の回顧とぼやきが基調となる。「虹」はきっと、人間の業みたいなもので。螺旋。ループ。誘惑。混沌。陶酔。根源的で、蠱惑的な、妖しげな魅力をたたえた光。

 こっちは本当にファウストが基盤にある。
 ファウスト=理想に燃えた男
 メフィストフェレス=誘惑と堕落を散らつかせる道化じみた悪魔
 #5 FAUST ARPは諦め、惑い、理想の火が消え行く男の独白。
 #10 VIDEOTAPEでは最後の審判の瞬間を前にメフィストフェレスの接近を感じる。

 理想と挫折の果てに踏み込む虹色の迷宮。
 それは、一人の男が今居る場所かもしれないし、人類全体の現在地点かもしれない。
    

ファウスト


あらすじ:
 ファ「勉強ばっかして青春を無駄にしちまった!もっとエロいことすりゃよかった!」
 メ「俺悪魔だけど、契約していろいろ経験してみない?」


読んでみた感想:
 ――これ、まどかマギカにあんまり関係ないな。

思ったこと:
 ――登場人物がみんな名言を吐こうとする風潮はよくない。

結論:
 ――この人の作品は仰々しいのが多い。
 

2012年11月10日土曜日

魔法少女まどかマギカ


 普通の女の子が魔法少女になって魔女と戦う話。
 前半の戦闘少女ものの王道をいく雰囲気は既視感を生じさせ、観る者をミスリードする。
 そして、予想外のストーリー展開に衝撃が。

 「僕と契約して、魔法少女になってよ」
 悪魔との契約。メフィストフェレスを想起。
 ファウストがベースにある。ワルプルギスの夜、とか。
 incubate : 培養する。孵化する。
 祈りと呪い。希望と絶望。
 エントロピーと因果律。
 円環の理。

 日本男児は自己犠牲のメシア的な女の子が好きなんだな。
 そもそもこの話、男出ねえな。本当。

 日本のアニメの2011年時点での集大成、という感がある。
 セカイ系、うつ展開、ループ…etc.
 既存の要素をふんだんに盛り込みつつ、誰も見たことがなかった物語で魅せてくれる。

 最初に観るなら劇場版よりも、TV版全12話を通しで観る方を勧める。
   

2012年11月5日月曜日

町長選挙


 破天荒な精神科医が現代人の心の病に挑むシリーズ、の3冊目。

 神経症圏の疾患多し。というか全部。
 心因性の認知の歪みを巨大な稚児のような怪物、伊良部一郎が解きほぐす。

 3冊目は(当時の)旬のネタが多い。
 ナベツネ、ライブドアの堀江、黒木瞳。

 飄々とした語り口にくたびれた大人の哀愁と滑稽さが漂う。
 全作に通底するのは「肩肘張って生きんなよ」という処世訓である。

 基本的にはアホっぽい伊良部がさらっと核心的な病理構造を言い当てるという構成。
 定型の型があり、安心して楽しめる。
 これが大人の娯楽なのかもしれない。 
   

2012年11月4日日曜日

悪童日記


 「大きな町」から来て、「小さな町」で暮らすことになった双子の物語。

 作中で固有の地名や人名は明記されない。
 物語の背景より第二次大戦下のハンガリーであることが推察される。

 戦時下の町は食べ物が尽き、人の心は荒廃している。
 現実は容赦なく残酷で、女は犯され、家畜や金品は強奪される。

 知能の高い二人の子供は、曇りの無いフラットな目で世界を眺める。
 そこには中途半端な憐憫も、倨傲もない。
 ただただ合理的な、生きるための意思がある。
 自発的に学習し、鍛錬し、狩猟し、商い、人と交わり、生き抜く術を体得していく。

 現実を生き抜くこと。
 その過酷さと歓びが凝縮された掌編。