2012年9月30日日曜日

プラネテス


 いい漫画教えて~、と請われると大体これを薦める。
 原題は古代ギリシア語で「惑う人」「惑星」の意。

 2070年代、人類は地球外にも住んでいる。
 宇宙船乗りは「ふなのり」と呼ばれる。
 主人公ハチマキは気のいい仲間と共にデブリ(宇宙ゴミ)を拾う仕事をしている。
 背景には宇宙開発と紛争。
 国家規模の思惑。押し潰される個人。
 木星往還船とロマン。男の子と女の子。
 基本的には1話完結の群像劇。

 個人的にMVPはゴロウさん夫妻かな。
 諦観に至った大人。底には深い愛がある。

 何度も読むほど味が出る。
   

2012年9月23日日曜日

冒険投資家ジム・ロジャーズ世界バイク紀行


 旅の楽しさを教えてくれたのは、村上龍のエッセイで知ったこの本だった。本物の知性があれば、同じものを見ても違うように見えるようになる。
 

・・・
 できる限りこの世界の現実を見ることだ。どのような仕事に就いてようと、世界を自らの目で見ることで人生の成功がより確かなものとなる。子育てにも役立つし、教師、政治家、芸術家、ジャーナリスト、商人、そう、投資家にも必要なことなのである。 
 世界を見れば、自国のこともわかるようになる。他の国を知っている者は、そうでない者よりも自国へのかなり深い理解が得られる。さらに重要なことは、各国を旅することで、自分自身を知るという点だ。自分の強み、弱み、興味、関心がわかってくる。いずれの分野を目指しているにせよ、自分のことがわかるにつれ、成功は確かなものになっていく。 
 世界各地を旅することが、時として難しいのは、言語、習慣、住環境、食物、法律などが違うことによる。それだからこそ旅は楽しいのであり、刺激的なのであり、勉強になるのである。 
 自国の中で行ったことのない場所を旅行するのも、海外を観光するのも楽しいことではある。しかし、本当の旅の喜びや学ぶべきことは、地面を直に歩き、見ることから生まれる。思いもしなかったことに疑問を持ったり、自分が知らなかったことを学ぶことになるのだ。 
 読者のみなさんが旅によって啓発され、人生をよりよい方向に変えていくことを祈る。今よりも成功し、さらに幸せになるのだ。人生は短い。だからこそ、力強く遠くへ旅立とう。成功への第一歩を歩み始めて欲しい。 
 どこか世界の街角で会おう。
  文庫版への序文———世界を見よう ジム・ロジャーズ『冒険投資家ジム・ロジャーズ世界バイク紀行』より
 

2012年9月19日水曜日

池袋ウエストゲートパーク


 池袋が舞台のシリーズ。
 主人公のマコトは私立探偵であり、コラムニストであり、日本の今を生きる若者である。闇サイトとかホームレス狩りとかリーマンショックとか、毎話時事ネタが絡む。

 こち亀をハードにした感がある。池波正太郎の鬼平犯科帳も意識してるらしい。時代を生きる市井の人々の味わい。

 宮藤官九郎脚本のドラマとは全然違うが、両方いい味出してる。


・・・

 ストリートはすごくおもしろい舞台で厳しい学校だ。おれたちはそこでぶつかり、傷つき、学び、ちょっとだけ成長する(たぶんね)。街の物語には終わりがない。 
 だから、おれもさよならはいわない。いつか、どこかでまた会おう。それまでにおもしろいネタをたくさん仕込んでおくよ。見つからなかったら、でっちあげればいい。 
 おれの嘘がうまいのは、ここまで読んだあんたならわかってるだろ?  
   池袋ウエストゲートパーク 『サンシャイン通り内戦』より
   

2012年9月14日金曜日

Steve Jobs


 iPhone5出たし再掲。
 去年書いたやつ。

・・・

 毒にも薬にもならない、という凡庸な人物への評に用いられる言辞があるが、ジョブズの人間性はその対極にある。禅思想に傾倒した厳格なベジタリアン。風呂に入らず、髪や髭は伸ばし放題。裸足で社屋や取引先に出入りする。よく激昂し、罵倒し、泣く。だけど己が追求する美の感覚に対しては決して妥協しない。

 人として最低であることは間違いない。そして人類史上最高の製品と企業文化を創ったカリスマでもある。劇薬のような強烈な個性は世界中の多くの才能を惹き付けた。
 
 「文系と理系の交差点に立てる人間にこそ価値がある」というポラロイド社のエドウィン・ランドの言葉に若き日のジョブズは感銘を受けたという。artscienceが出会う場所。芸術と技術を融合させた結果生まれたのがMacでありiPodである。

 精神医学は人文科学と自然科学が出会う医学領域である。
 ジョブズの業績から得られるものは数えきれない。
   

2012年9月11日火曜日

OUT OF CONTROL


 今この短編集を読み終えて確信する。現時点で最強の日本人作家は冲方丁だ。
 言語性IQ200くらいありそう。
 才能を発散させず、比類ない傑作を沢山残して欲しい。



 スタンドアウト
 著者の自伝的作品。ナイフ持って夜の街を彷徨ってたティーンの頃の話。

 まあこ、箱、デストピア
 乙一とかスティーブン・キング系の短編ホラー。王道だけど退屈させない佳作。

 日本改暦事情
 天地明察のダイジェストバージョン。関孝和以外はほぼ省略されている。

 メトセラとプラスチックと太陽の臓器
 SF。タイトルの後ろから順に意味が分かる構成が勉強になる。
 こういうバイオテクノロジーと生命倫理みたいなジャンルは好き。

 OUT OF CONTROL
 冲方丁の思考回路はこんなんですよ、というのが一番わかる話。
 「ピカソは40過ぎてからにしよう」と編集者に諌められた路線がこれか。
      

2012年9月6日木曜日

複雑系


 「全体は部分の総和以上である」 
 ホーリズムと進化 (南アフリカの軍人/政治家/哲学者ヤン・スマッツ)より


 複雑系とは個体間の複雑な相互作用の結果として生まれる働きのこと。シンプルなルールを持った構成要素が集まって、みずみずしい生命力を獲得した「系」となる。

 つまりそれって、team chemistry=構成要員の相互の化学反応の集大成。最初に思い浮かんだのはGIANT KILLINGSLAM DUNK幽遊白書、のだめカンタービレの音楽もそう。運動部や学校祭を通して学んだ集団力動。複雑な化学反応の末に、シンプルで美しい調和ができる。

 経済動向。神経細胞と心。
 蟻の巣。生態系。2ちゃんの祭り。
 根底にあるのはcomplex system。

 そんな複雑系を人間が理解する様式の一つが物語=narrativeだと思うんだ。
 いい物語は人生の攻略法を教えてくれる。

 だから、研究する価値がある。

  

2012年9月2日日曜日

オイレンシュピーゲル


 一番手に取るのを躊躇うが、一番面白い冲方作品かもしれない。 

 見た目と掛け合いが萌えアニメだが、中身は重厚なSF。ゴルゴ13+エヴァンゲリオンをラノベテイストにした感じ。

 テーマは国際紛争、障害児、少女の成長。オーストリアの国際都市ミリオポリスで、障害をもった手足を機械化された特甲児童が戦う話。重くて凄惨な諸問題がラノベ的コミカルさをもって進行していく。まさしくEurenspiegel=死に至る悪ふざけ。

 涼月のタバコと「なんか世界とか救いてぇ」が、読むほどに沁みるようになる。