2016年3月27日日曜日

らんま 1/2


 健全なエロと笑い。その奇跡的な配合。

 なんというか呑気な1990年代前半の日本の空気が漂う。1話~数話完結で、登場人物達が変な敵と戦ったり滑稽なトラブルに巻き込まれる話が延々と続く。甘酸っぱい恋心が互いにすれ違い、すんでの所でギリギリの平衡を保つ、ひたすらそういう話が続く。ひたすら同じパターンで38巻まで引っ張る。そういう漫画である。

 それなのに…この楽しい空気。水を被ると女になっておっぱい丸出しの乱馬、パンダの親父、方向音痴の良牙、変態ナルシストの九能、清々しいゲス野郎の八宝斎、シャンプー、ムース、右京、校長、パンスト太郎…etc. そして何より一番控えめで佇まいが可愛い天道あかね。ひたすらワンパターンでどたばたしている空気がただ楽しい。安心できるエロと思春期の恋心、繰り返す定型ギャグがひたすら心地よい、そういう漫画である。

 LBGTやフェミニストの活動家が声高に攻撃する恐れがあるので今じゃ描けないかもしれない。変な下心や恐れがないニュートラルな精神状態を保ち続ける作者にしか描けないんじゃないかという気がして、大人になってから読むと凄味を感じる。さらっとこれをかませるところが高橋留美子の巨匠たる所以だな、と独り感じ入って読んでいた。

 読むと心が健康になりそう。生きる歓びが溢れている。
     

2016年2月21日日曜日

エイリアン


 感想:「乗るやつもっと厳選しろよ」

 遅ればせながら初めて観た。内容は言わずと知れた有名作品で、宇宙船内で異星で拾ってきた地球外生命体が暴れるという話。1979年の作品。

 乗組員(クルー)は嫌なやつ多し。筆者は最近読んだ『火星の人』や『宇宙兄弟』あたりの影響で最近は宇宙飛行士ものブームであり、長期にわたり閉鎖環境で苦楽を共にするクルー達の適性審査みたいな話をよく目にして想いを馳せているが、本作での人々は、なんというか、浅はかで、薄っぺらいやつばかりだ。1970年代の人間観はそんなもんだったのか(ヒトのエゴや怠惰や誤謬への諦観があった?)、パニックムービーとしての体裁を取るためのご都合主義なのか(ホラー映画で殺されそうな奴ばっかりだ)、まあ、そのへんが観ていて大変気になった。クルーの人間性の適性のなさがリアリティを欠いているのである。

 映像技術はレトロで、今観ると歴史的名作の風情。宇宙船のテクノロジーへの愛着が散見され、監督のリドリー・スコットが約40年後に『オデッセイ』を作ったと考えると感慨深い。体液を撒き散らすことで怖さを表現するグロテスクな描写は、当時の制作者としては精一杯の想像だったんだろう。映画の発展と共に人類の世界認識も進歩しているんだな、と観ていて思った。
   

2016年2月20日土曜日

NOVA3


 大森望編集の短編集3冊目。ハードSF色強し。

 冒頭のパロディ漫画、とり・みき『SF大将特別編 万物理論[完全版]』がスマッシュヒット。元ネタのグレッグ・イーガンの長編を読んでいたので深く心に沁み入る。

 人工知能のバイクと管理コンピュータの友情物語『ろーどそうるず』(小川一水)は友情の描き方が模範的で、お約束の空気が漂い、分かっちゃいるが感動的。SF的な科学技術と伝統的日本文化の問題が融合して問題を提起する長谷敏司『東山屋敷の人々』みたいのはだいぶ好き。難解だけどハードSFの醍醐味が詰まっている瀬名秀明『希望』も繰り返し読みたくなった。

 個人的な好みからは円城塔は縁遠いなと思った。言葉遊びのための言葉遊びって感じが今イチ。あと東浩紀『火星のプリンセス』も、アニメに理想の自己を投影するようなオタク男子の気持ち悪さが想起され好きになれず。そういういびつな自己愛が生む過度な爽やかさみたいなものがなければ、もっと好きだと思う。(シュタインズゲートが好きになれないのと同じ原理。実社会でイケてない男の屈折した美学みたいのが気になって楽しめない)

 続けて読んでいると、自分のSF的な好みが把握できて非常に有意義なシリーズ。職場の昼休み読むといい感じ。続きも読まな。
   

2016年2月13日土曜日

ジョジョの奇妙な冒険 Parte 5 黄金の風


 舞台はイタリアへ。裏社会のギャング・ファミリーの話。

 主人公のジョルノ・ジョヴァーナはあまり目立たない。組織の幹部を目指す義と侠気の男ブチャラティの方が主役級の扱い。第五部で最も重要な台詞「アリアリアリアリ アリーヴェデルチ(さよならだ)」も彼のものである。

 ボスの娘トリッシュを送り届けるあたりまでは安定して面白い。ボスのスタンド(キング・クリムゾン)の能力が第三部のDIOとかぶるのは難点。ラストの「矢」を巡ったバトルは複雑過ぎてよくわからないから読み飛ばした。ああいうのはアニメで表現してくれると理解がはかどると思う。

 悲惨な境遇に生まれ育った者たちの戦い(運命の奴隷)というテーマがあるらしいが、作者の意気込みが強いせいか表現上の作為が過剰なのが気になる。しかしまあそれもイタリアンな伊達と考えれば本シリーズ特有の味か。各キャラクターの過去エピソードの挿入はいい感じ。
      

2016年2月11日木曜日

ダーリンは70歳


 50歳の漫画家・西原理恵子が交際相手である70歳の高須克也(イエス!高須クリニックの人、美容形成外科医)との日々を綴るエッセイ漫画。

 表紙の通り可愛い絵柄で、ほっこり温かいエピソードを交えてタブーとされがちな中高年の恋愛を描くーーーなんていう生やさしいもんではなく、エグい話題が多い。東京で一番安い風俗店で働く歯がぼろぼろの風俗嬢の話とか、女性器の美容整形の話とか、性に関しては露骨でかなりキツい描写が多い。でもそのくせ、マジでいい話を混ぜてくるニクい構成。

 しかしまあ、この人は何かと戦っている人なんだと思う。「そんなちっちぇーことで悩んでんじゃねえよ!!」とでも言いたげな、猥雑で猛々しい生きる力が溢れている。人間の醜さや滑稽さを誤摩化さず、それでいて愛がある。つまりまあ、ロックな作品である。
   

2016年2月7日日曜日

オデッセイ


 感想:原作の方が面白い。

 火星に一人取り残された宇宙飛行士が生存のために知力体力を尽くす…というアンディ・ウィアー原作のSF小説の映画化。火星の景色やNASAのガジェットの再現など映像は臨場感があり素晴らしい。しかし、弱点は原作の妙味である徹底的な理論構築の過程が割愛されていること。数式やディスカッションは映像化には不向きなんだろうが、カロリー計算やらジャガイモ栽培の方法論やら、物理、化学、情報工学、植物学、栄養学など縦横無尽に操りながら、生存および地球への帰還という解を導くために総動員される科学知識を追いかける知的興奮が味わえないのが残念。

 あと、主演のマット・デイモンは個人的にはミスキャスト。原作のイメージとしては、ジム・キャリーレベルの天真爛漫な陽気さが欲しかったところ。寡黙で燻し銀な男の皮肉なジョークは原作とはズレている。

 総括として、原作の理論的な説明やイベントを時間軸の関係でいろいろ端折って、アメリカンな娯楽映画に仕立てたという印象。映画も悪くないけど、理系の素地がある人には絶対に原作の小説がオススメ。映画は非理系の人も楽しめるように簡略化されている。
   

2016年2月6日土曜日

パニック・ルーム


 「パニックルーム」という防犯用の部屋に閉じこもって母娘が強盗と戦う話。
 
 今まで観たデイヴィッド・フィンチャー監督の映画の中では一番面白くなかった。映像的にはフィンチャー作品らしい雰囲気(暗い色調、控えめで暗いBGM)だけど、内容はB級のサイコホラーって感じ。物足りないのはゴーンガールファイトクラブのような底意地の悪い皮肉がないせいだと思われる。

 本作は凡作だと思うが、フィンチャーは風刺の効いたブラックジョークの名手だということを自分の中で再確認できた。その要素が抜けると、ただの暗い雰囲気の月並みな娯楽映画の人になってしまうらしい。ベンジャミン・バトンしかり。
   

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