感想:金田一少年の事件簿っぽい。
考えてみれば当然だがオリジナルと派生の関係が逆で、筆者世代が慣れ親しんだ金田一少年の”ジッちゃん”である金田一耕助が猟奇的な事件に巻き込まれ解決に挑むシリーズ。今回観たのは監督市川崑、主演石坂浩二の1977年の映画版。
猟奇的な連続殺人、手毬唄の歌詞との見立て、奇妙な閉鎖社会、謎解きと推理、残酷さとコメディタッチが入れ替わりに現れる構成、俗物の警部とすっとぼけた探偵という構図、といった”金田一少年の事件簿”の大部分の構成要素の元ネタはこれだったのかと納得。完成された定型の妙味を受け継ぎ、漫画作品として蘇らせたのが筆者世代が親しんだあの漫画だったのだと理解した。
舞台は昭和27年、岡山の山村で起きる連続殺人事件の話。平成に活躍する金田一少年の祖父の話だと思って観るとなかなか感慨深いものがある。現代っ子には日本語の聞き取りと鑑賞しながらの人間関係の整理がきついが、不気味な空気が漂う映像や人間味溢れる掛け合いが観ていて飽きさせない。
次は”犬神家”をチェックしたい。
藤子不二雄のFの方(ドラえもんの作者)の短編集。猟奇趣味なAの方に比べて、人間への暖かい眼差しを恥じたり臆したりせずに表現する作風。とは言え、基本的には風刺で、サイコホラーやSFの奇妙な題材で人間性の本質にアプローチする。
気に入ったのは食欲と性欲に関する恥の観念が入れ替わった世界を描く表題作”気楽に殺ろうよ”、独善的で欺瞞に満ちた超人の話”ウルトラ・スーパー・デラックスマン”あたり。中世のロマンスをSF的記号で再構築した”サンプルAとB”はいいセンス。
全編を通して、昭和頃の古き良き日本にあった人間臭さや情感が漂う。21世紀以降のエゲツない凄惨な描写や体温低めな色恋話に欠けているものが残っている。ノスタルジックな読後感。
大学以来久しぶりに読み直して痛感した。これは最強の短編集だ。
SF評論家の大森望曰く「(2000年代時点で)現代SF最大最高の作家」グレッグ・イーガンの短編集。分子生物学やナノテクノロジーを含めた近未来の医学や量子力学や情報科学の理論を自在に操りながら語られるのは基本的には哲学。読む者の常識を揺るがし、アイデンティティへの認識を引きずり回し、知的刺激と共に情緒的な興奮やカタルシスや提供する。
私的ベスト順位は以下。
1位 ボーダーガード(量子サッカーと不死の話)
2位 愛撫(猟奇犯罪もの)
3位 しあわせの理由(神経伝達物質と心の話)
4位 道徳的ウイルス学者(狂信者とテロの寓話)
5位 適切な愛(移植と生命倫理の話)
医学知識は8割くらいは対応できたが、IT関連、量子力学関連の知識は厳しかった。(日本語訳でも)分からない単語は無数にあるが、物語の筋を理解できた時の強烈な感覚は比類ない。最新鋭の科学が人間に与える影響や人間倫理やアイデンティティへの洞察を得るのに、短編小説という形式を選んだこれ以上の書物は存在するのだろうか。
精神科医のような仕事をする人に是非読んでほしい作品No.1である。
週刊誌のSPA!で女心を知りたかったらこれを読め的な少女漫画部門1位だったので購入。
短編7つ入り。表題作は夫のED(性機能不全)の話で、あとは大体30女の色恋やアイデンティティの話題。 日常で搔き消えてしまいそうな違和感を扱う。スマートフォンが登場したり介護施設で働いてたり設定は現代風。
女の心の勉強にはなるだろう。
面白いかと問われれば「普通」。
3週間限定公開のファンクラブ会員限定のライブの映画。インタビューによると誰も聴いたことのない未発表の新曲をライブでファンに聴かせてみたい、という趣向だそう。
個人的な感想は「この人たち、喋るとあんまし格好よくないな」というのと「歌は最高」。そしてニューアルバムは6月発売とのこと。楽しみ。
序盤の”旅人”が90年代からのファンにはたまらない。新曲で良かったのはFIGHT CLUB>未完>幻聴>進化論。添え物のような他の曲もアルバムの隙間を埋めるといい味を出すかもしれない。
複雑な葛藤を経て、垢や毒がすっきり抜け落ちたように思える瞬間がある。
後半の”幻聴”の演奏の途中にそれはあった。
そういう場所へ連れて行ってくれるミスチルが今も昔も好きだと思った。
電子ブックで久しぶりに読み返した。
医師になってから読むと、医学部時代に再読した時とはまた違う発見があった。
主人公の研修医(斉藤)はパーソナリティ障害っぽい。
全か無か思考、独善性、特定の患者以外の他者への共感能力の乏しさ、衝動制御能力の乏しさ、など、学力偏差値は高いんだろうが(たぶんモデルは慶応の医学部)社会人としての協調性やバランス感覚を欠き、認知や行動の偏りが年齢不相応に著しい。偏りが大きい人(「変わった人」と言われがちな人)というノイズを混入させることで、腐敗した医療現場の実体を浮き彫りにし、硬直化した権力構造に瑞々しい変化を誘発させる触媒にする…という意図が作者にあったことは明白だが、一言で言うと「パーソナリティ障害っぽい」のである。正義漢と言えば聞こえがいいが、実際にはうまくいってるものまでぶち壊すトラブルメーカーとしての側面が強く、実際職場にああいう人が1人居ると雰囲気は悪くなりっぱなしだろう。
絶対悪を必要とする正義。
この作品には「大学病院の医師は絶対悪である」というテーゼがある。「医者なんて保身と出世が最優先の俗物の集まりだ」という制作者の揺るぎない信念があり、私に言わせればそうした表現は大学病院で懸命に研究や臨床に取り組んでいる医師を侮辱している。確かに、人間として尊敬に価しない医師はいるだろうし、中には全力で糾弾すべき職業倫理に欠けた俗物や極悪人もいるだろう。しかし、この漫画のように揃いも揃ってイヤな感じに描かれるほどかというと甚だ疑問である。
ちなみに、この漫画の連載直前の2000年にWHO(世界保険機構)から日本の公的医療制度は世界最高の評価を受け、OECD諸国でも最高水準の健康指標(寿命、乳児死亡率)を達成していた。「大衆は豊かになると左傾化する」という仮説を私は常日頃いだいているが、世界最高レベルのアクセスとコストパフォーマンスで現代医療の恩恵を享受できていた日本国民が「この国の医療は腐ってる!」と叫ぶ漫画に熱狂したことは意義深い点だと思う。そりゃ村上先生だって怒るよ、てなもんである。
旧日本軍とか、大蔵官僚とか、経団連とか、反日教育とか、どこかに絶対悪がいることを想定しないと成立たない自我に危うさを感じる。大きい声で悪口ばっかり言っている一部の民主党議員や人権活動家や隣国の人に通じる、内省に欠けた空虚で他責的なパーソナリティを彷彿とさせるのである。
作り手の情熱は素晴らしい。
感動的な話もあるし、考えさせられる話もある。抗がん剤と家族の話はとりわけ痛々しくて胸に迫る。(視点に偏りはがあるにしても)新生児医療の話は現場の過酷な実情を丹念に描き、生命倫理の問題意識を人口に膾炙したという点においてその意味は大きい。何より、医療の問題を漫画という形式でジャーナリスティックに取り上げるというこれまでにない形式を確立したという業績は重要である。精神科患者への偏見(スティグマ)がテーマの精神科医療の話も描写や説明に違和感はなく、よく調べて描いているように思う。絵とストーリーで表現する漫画という形式は分かりやすくてインパクトが大きく、一般大衆への訴求性がハンパ無いのである。
(読んでないが)続編はクソらしいので、この前半を久しぶりに読み終えたということで良しとする。電子版は無料で全巻読めるのが素晴らしい。なんだかんだ言って若いうちに読む価値がある気合いの入った漫画だと思います。画力と構成力が素晴らしい。
佐藤優が薦めていたので久しぶりに読んだ伊坂幸太郎作品。
関連性のある中編3つからなる構成。表題作『PK』だけ読むと普通にいい話、2つ目の『超人』と3つ目の『密使』を合わせると時間SFとして楽しめる。
大臣、サッカー選手、作家のパートなど、複数の登場人物の視点を緩やかに繋げる作風は『ラッシュライフ』の頃から健在。個人的には(テーマ的にも)斉藤和義へ提供した歌詞『ベリーベリーストロング』に近いと思っている。「勇気は伝染する」という心理学者アドラーの警句が幾度も引用される。誰かの勇気に誰かが感化される話。人が賦活する人の話。
良くも悪くも軽くて読みやすい、相変わらずの伊坂節。
出張でサクッと読むのにいい感じ。