2017年12月8日金曜日

医龍 -Team Medical Dragon-


 読んでいたのは医師国家試験前だったか。数年ぶりに再読。全25巻。

 大学病院の心臓血管外科の教授戦を舞台に天才外科医・朝田龍太郎らが暴れ回る医療ドラマである。権力闘争、医局制度、天才の孤独、凡人の葛藤、色恋と成長、医療倫理、など、医療現場を中心に豊穰なヒューマンドラマが描かれる。

 絵も巧いがプロットがいい。朝田、ミキ、加藤、鬼頭などのセクシーな性的強者の妖艶さもいいが、野口、木原、鱈淵なんかの醜悪な面子の造型が内面を含め秀逸。強き医療人が放つ圧倒的な魅力と、そうはなれない大多数の凡人の人間臭い弱さ。そんな格好よさと醜さの対比が際立つ。彼らが化学反応を起こし、葛藤し、限界を超え、課題を克服せんとする戦いのサーガが描かれる。医療ネタの突っ込みどころは多々あるが読めるレベルではある(他にもっとひどいのあるし)。

 最終話はミスチルの『prelude』(16thアルバムSENSE所収)や『HERO』にインスパイアされたのかと個人的に思っている。全編を通して高いテンションが続き、最後には素晴らしい読後感がある。好きだ。
   

2017年11月24日金曜日

ミュンヘン


 史実に基づくスティーブン・スピルバーグ監督の2005年作品。

 1972年のミュンヘン・オリンピックで起きた代表選手の殺害事件を受け、イスラエルの諜報機関(モサド)が犯人であるパレスティナ人の暗殺を企てる。同機関の工作員である主人公が標的を追って、ヨーロッパ各国を駆け回る。

 ユダヤ人である自身のルーツを作品に投影するスピルバーグの作風が典型的に表れている作品であるように思う。祖国、ユダヤの歴史、放浪、安住の地の希求、など、枚挙すれば暇がない。とりわけ本作品では、食卓や家族との憩いと残虐無比なテロリズムのシーンの対比が目立つ。国家に殉じる暗殺者の、人間としてのルーツを描く作品になっている。

 そして何より、娯楽映画として観ていて飽きさせない名匠の至芸という風情がある。異国情緒、サスペンス、ロマンスを贅沢に配置しつつ、思い切った省略が功を奏し、サクサク進む展開が気持ちいい。省くべきは省き、見せるべきシーンには時間を割く構成が長尺(163分)の作品を成功させている要因であるように思う。

 これはマイフェイバリットな作品に加わった。スピルバーグ作品では現在首位かも。
   

2017年11月18日土曜日

マグノリア


 ポール・トーマス・アンダーソン(PTA)監督のアメリカ映画。1999年作品。

 10年前に観たときは、深い意味がありそうだけどよくわからない映画だと思っていたが、久しぶりに再視聴して、前よりは意味が分かったと思う。まあ…一言でまとめると大変深みに欠けるが、愛を求め傷つく人達の物語、必然的に連鎖し、偶然性に左右される人々の群像劇である。一つの街で暮らす、男女9人の物語が少しずつ交錯し、ドラマを生む。

 wikipediaで調べたところによると、PTAが主題歌であるエイミー・マンの”save me”(私を救って)という曲にインスパイアされて作った映画らしく、作品にうまくハマって空気を作っている。生活感や微妙な心情の変化が伝わるロングカットの会話劇が特徴的で、音楽が相俟ってスタイリッシュに仕上がっている。3時間以上ある作品だが、展開の緩急の付け方がうまいせいか、あまり飽きさせないのも好感。

 結構好きだった。またいつか観るかも。
    

2017年10月31日火曜日

OK Computer


 「最初はわけわかんないと思うけど、何回も聴くうちに好きになるよ」と大学生の頃に友人に勧められて購入した1997年発売のレディオヘッド3rdアルバム。

 あれから10年近く聴き続けているCDだが、確かに、今はかなり好きだ。まず何よりタイトルとアートワークが格好いい。音楽的には、バンドサウンドのギターロックとコンピュータ処理された電子音楽の融合。冒頭の#1 Airbagのギターのイントロから始まりから、静と動の緩急をつけつつ、苦悩するトム・ヨークの呻吟と共に、全編を油断できない不穏な空気が貫く。1990年代の世界の、巨大に産業化され、効率化された社会に人間性を蝕まれ、内面が壊れていく個人の断末魔が表象される。この感覚が(国は違えど)時代性として、『ファイトクラブ』や『アメリカンビューティー』に繋がっていったんだろう、と想像できる。物質的には豊かだけど、心が死んでいる人たちの世界。

 とっつきやすいのは#5 Let down, #10 No surprisesだと思うが、聴き込めば全曲味わい深さがある。個人的にはレディオヘッドは本作~7th アルバム(In Rainbows)までのスタンスが好きだ。それ以前は青臭すぎるし、それ以後はやや迷走している感がある。実験性と娯楽性のバランスに関しては本作がベストであると思う。
   
   

2017年10月29日日曜日

実録・連合赤軍 あさま山荘への道程

 ちょうど、山のそのあたりに、おびただしい豚の群れが飼ってあったので、悪霊どもは、その豚の中に入ることを許してくださいと願った。イエスはそれを許された。悪霊どもは、その人から出て、豚の中に入った。すると、豚の群れはいきなり崖を駆け下って湖になだれ込み、おぼれ死んだ。
ルカによる福音書 8章32節-33節

・・・

 当時の映像や新聞記事等の歴史的資料を交え、1972年2月の『あさま山荘事件』に至るまでの日本赤軍の軌跡の再現を試みた映画作品。2008年公開。監督は若松孝二。190分。

 観ていて思い出したのはドストエフスキーの『悪霊』。そして、その冒頭に引用されている悪霊に取り憑かれた豚が集団自殺する新約聖書の1節。共産主義思想というイデオロギーに取り憑かれ、人としての道を踏み外し、破滅へと至る彼らのストーリーには普遍性がある。生物学的な条件において彼らも同じ人間ではあるが、特定の思想体系や洗脳に近い社会装置(総括や自己批判など)によって非人間化され、やがて時代錯誤で、不合理で、倒錯した狂信者となった。

 実際、今の私から見ると、ただの滑稽で迷惑な連中なんだが、その度合いが強すぎて、世界中で多くの死者を出すほどのレベルでやらかしているので無邪気に笑うことはできない。政治的主張のための世界初の無差別テロ(テルアビブ空港乱射事件など)を行ったりする彼らに日本中の人々がドン引きし、団塊の世代が熱狂した全共闘の学生運動が収まる転換点となったそうだ。私はキューバ革命の闘志たちは心の底から格好いいと思うが、連合赤軍(日本赤軍)の人達はただの滑稽なバカだと思う。彼らの革命的信条や行動原理に足りていないのは、自らを客観視し、己の矛盾を笑い、赦す、ユーモアの精神に思えてならない。本作の終盤で「勇気がない!」という重要な台詞があるが、彼らに足りていない、自分の弱さを見つめ直す勇気の必要性を喝破した制作者の主張であるように思えた。

 「世の中には、どうしてこんなに酷いことができる人がいるんだろうか」と、そんな問いが浮かぶ度、いつも私が辿り着くのは、彼らの心に良質な物語が足りないせいではないかということである。ナラティブな豊かさ、と言い換えてもいい。固有名詞や人間的情感を排した抽象的な論理や教条のみを信奉する者は、他者の物語を尊重することができず、血を伴った他人の痛みや温もりを共感することができない。チベットを弾圧する中国の共産党、イスラムのIS、かつてのオウム真理教やポルポトもそう。良質な物語の拡散こそが世界平和に繋がるという信念に基づき、このブログは運営されている。残虐な彼らに足りないのは、素晴らしい物語で心を動かした体験であろう。
   

2017年10月23日月曜日

アメリカン・ビューティー


 アメリカの中流家庭の崩壊を描く映画。1999年作品。

 10年くらい前に観たときは意味がよく分からなかったが、今観直してみて、昔よりも理解できたと確信できる。20世紀までのアメリカの中流階級の伝統が揺らぎ、混乱のさなかにある人々の姿が閑静な住宅街に潜む狂気を通して描かれている。

 この映画で描く人々の歪みが、後のトランプ政権を生み出すことになるアメリカに堆積した不全感に繋がるんだろうと思った。物質的に満たされても得られない充足感、傷つく夫の自尊感情、飽くことのない妻の上昇志向、近所に住む同性愛者のカップルとそれを苦々しく思う軍人、信頼の置ける価値基準を持てないティーンズの葛藤、など。ステレオタイプに信じられてきたこれまでのやり方が通じない時代の変化に皆が戸惑い、出口のない閉塞感と寂しさを抱き、救いを求めている。

 そんな時代を包む不安と混沌を、頽廃的な美として映像的に表現した映画である。好きだ。
   

2017年10月22日日曜日

アメリカン・スナイパー


 実在した伝説の海兵隊の狙撃兵を生涯を描く映画。2014年作品。
 
 クリント・イーストウッドの映画を集中的に観たくなったのでDVDを購入。実在の人物の生涯を描く作品であり演出は控えめだが、不条理な世界の中で主人公が男を張る、というイーストウッド作品に通底するテーマは健在である。

 2001年の9.11の後にイラクに派兵された米兵の物語であり、まさしくアメリカのヒーロー像という描かれ方に違和感を禁じ得ない人もいると思われるが、良くも悪くも戦争の現実を描いている再現性の高い作品だと思う。DVD特典のメイキングのドキュメンタリーも観たが、製作陣の作り手としての真摯さ、誠実さには胸を打つものがある。制作過程において発生した偶発的な事件が、作品の意味性をより印象的なものにしているのだが、書くと興を削ぐので興味のある人は観終わったあとに自分で調べてほしい。

 控え目で余韻が残るイーストウッド映画。他作品にも期待。
   

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