2017年9月28日木曜日

るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-


 10年ぶりくらいに通読。全28巻。

 掲載は1994年~1999年で、筆者が中学生の時に買い揃えた漫画である。大人になった今読むと甘っちょろくてシラケてしまうやり取りも多いが、少年漫画としては優秀だと思う。戦闘シーンや表紙絵など画力は圧巻で、アメコミの影響を隠さないアクの強いキャラクターの造型もいい。牙突や二重の極みをはじめ、真似したくなる技が沢山あるのもいい。

 そして、骨格となるプロットがしっかりしている。幕末の伝説の人斬りが明治の世を生きる『罪と罰』の話であり、剣心の葛藤と信念には普遍性がある。神谷道場一派の道徳の押し付けは鼻につくが、そのアンチテーゼとして登場するピカレスクな登場人物たちは魅力的だ(斎藤一とか、志々雄真実とか)。

 惜しむらくは、ジャンプの腐女子化の流れに決定的な影響を与えたであろう作品だということ。『幽遊白書』の蔵馬飛影と、本作の美形な男たち(四乃森蒼紫、宗次郎あたり)が育んだものであろう。本作の般若や夷腕坊のような、醜悪さを含む造型のキャラクターを描く勇気がないのが最近の少年漫画の駄目なところだと思う。
   

2017年9月10日日曜日

ハートブルー


 若いFBI捜査官が捜査のためにサーフィンをやる映画。1991年作品。
 サーフィンのイメージを掴むために同僚の方に薦められて鑑賞。

 邦題のつけ方からしてバブルの頃の何ともいえないセンスを感じてはいたが(原題はPOINT BREAK)、内容もイマイチ。微妙に御都合主義な展開と、娯楽映画のお約束の紋切り型の履行と、何より人物造型が皆さんダメ。展開も人間性も、皆ハートってもんがないんじゃないのかね、と思うくらい浅薄だ。各人の行動も不可解なものが多く、脚本がチグハグで後半に進むにつれストーリーが空中分解している。

 しかし、讃えるべき点もある。サーファーのライフスタイルや文化がわかる。若いキアヌ・リーブスの顔が美しい。サーフィンのシーンを筆頭に、自然の撮り方は素晴らしい。アクションシーンも迫力がある。

 まあ…そういう映画だ。サーフィン入門を志す人にはいいだろう。
   

2017年9月9日土曜日

ブラックホークダウン


 1993年のソマリア内戦における米軍の歴史的敗北を描く戦争映画。2001年作品。

 基本的には、『地獄の黙示録』や『プラトーン』の系譜に連なる、情け容赦ない戦場の悲惨と軍人の男気を描く野郎のための映画である。上記の過去の作品と比べて撮影技術が発達しているため、戦場の光景が非常に高い水準で再現されている。市街地で乱戦となり、民兵の機関銃やRPG(ロケット式グレネード弾)が降り注ぎ、沢山の血が流れ、肉片が飛び、仲間が次々と死んでいく。戦場の生々しい映像が延々と続く。そういう映画である。

 特筆すべきははやりその臨場感で、観ている途中、緊張感と焦燥感がずっと続き、胸が焼け付くような苦しさがありながらも、なんとも形容しがたい高揚感があった。そしてテンポがいいのか、展開の妙か、145分の長尺だが観ていて飽きさせない(アカデミー賞の編集賞をとっている)。アメリカ流のナルシシズムが鼻につくシーンがしばしばあるため人によっては好き嫌いがありそうだが、実際に米軍視点の話なのでリアリティはあるだろう。全体として、過剰に心情に踏み込まない抑制の効いた描写には好感がもてる。

 戦争映画としては評判通り傑作である。戦争、軍人、男気に興味のある方に推奨。

 

2017年9月2日土曜日

ダーティハリー


 若きクリント・イーストウッド主演の刑事映画の金字塔。1971年作品。

 『こち亀』の第一話で中川が憧れを語るエピソード、『Dr.スランプ』の空豆タロウの父親(空豆クリキントン)のパロディ、『マルドゥック』のボイルドが使う大口径の銃…など、様々な作品に現れるイメージの源流を確認できた感がある。

 凶悪犯罪の多発するサンフランシスコで、殺人課の刑事としてdirtyな(汚れた)仕事を一人で背負う男の戦いを描く。後のイーストウッド監督作品へと続く、理不尽な世界でひとり男を張るというダンディズムがここにはある。髪型はイマイチだが、全体として格好よかった。後世への影響も納得のクオリティ。
   

2017年9月1日金曜日

うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち


「つらく苦しいうつトンネルから脱出できた者として、今なお苦しむ人を救わずにはいられない。」

・・・

 職場に置いてあったのでふと手に取って読んだ本。10年近くうつ病に苦しんだ漫画家・田中圭一が、自身の体験とうつ病経験者に取材した内容を書くエッセイ漫画である。

 内容は平易で、医学的な誤謬も特になく好感が持てる。心理学的、社会学的な要因の検討が多いが、そこは非医療者としての分をわきまえ、あくまで一般人として(医学の素人として)、自分のパーソナルな言葉で語ろうとする謙虚さや誠実さが一貫している。本書が提供する視覚的なイメージ(トンネル、アメーバ上の生物、黒い歯車など)やナラティブな経験談(17人の個人的なストーリー)を、科学知識に基づく適切な医学的治療と組み合わせることで、うつ病の治療のツールとして無類の強さを発揮すると考えられる。

 私を含め、知り合いの複数名の精神科医が推奨しているので、うつ病に興味がある方の入門書としてオススメである。『ツレがうつになりまして』と並ぶ、一般向けのうつ病の啓発書の双璧になるだろう…という気がする。