2014年10月20日月曜日

L.A. コンフィデンシャル


 1950年代のロスアンゼルス市警の話。原作はジェイムズ・エルロイの暗黒のL.A.4部作より。

 タフでハードボイルドな男の映画である。殉職した刑事を父にもつ出世欲の強い新入り刑事(ガイ・ピアース)、暴力を受ける女性に強いこだわりを持つ寡黙で朴訥な刑事(ラッセル・クロウ)、ゴシップ雑誌の記者と共謀して華やかな道を歩む刑事(ケヴィン・スペイシー)。麻薬、暴力、売春斡旋、権力抗争、収賄と汚職、信念と縄張り意識、欲望とプライドがせめぎ合い、一概に善悪で割り切れない命をかけた我の張り合いが続く。

 中学生に観た時はよく分からなかったが、30近い今観ると心にズシリと残るいい映画だった。理想のためには清濁併せ飲む器量が必要と言おうか。人間の本能に根付く欲望や裏切りを非難する幼稚な清廉潔白では、巨悪と対峙することはできない。原初の目的を果たし、信念を貫くためには綺麗事だけでは済ませられない。

 古きアメリカ西海岸の空気と骨太の人間ドラマを味わえる。俗世の不条理を知る大人の映画。
   

ドッグヴィル


 ダンサー・イン・ザ・ダークに続くラース・フォン・トリアー監督の胸糞映画。

 田舎の閉鎖社会の人間の底に潜む邪悪性を、まさかの舞台演劇で表現。屋内の倉庫のような空間の区分けでアメリカの山村が表現されているが、登場する俳優全員の演技力が高いので違和感無く引き込まれる。聡明で美貌の来訪者はニコール・キッドマン。狂言回しである無能な作家志望の若者の存在がリアルでいい。どこの国の地方都市にもいそう。

 哲学的な含みがありそうだが、ここでは特に言及しない。人の善性は状況に依存するものであり、絶対悪や絶対善を想定せずにはいられない未熟さを突きつける作品なのではないかと思う。

 万人の心の奥底に潜む悪に対する免疫をつけるためにも、若いうちに観ておきたい。
   

2014年10月13日月曜日

プラダを着た悪魔


 記者志望の若い女性が、人気ファッション雑誌の冷徹で悪魔のような女性編集長の下で働く話。

 ニューヨークのお洒落ヒエラルキーの頂点にいるファッション業界の人々の厳しくも華やかな暮らしが描かれる。筋書きに関しては御都合主義の感が否めないが、主演アン・ハサウェイの容姿、表情、佇まいが美しく、お洒落で楽しい映画である。

 観終わったときに思い浮かんだのはwell-dressed manとして知られる元国連事務総長コフィ•アナン氏の以下の至言。着る服や装飾品とは、決断と取捨選択の連続である人生の可視化された象徴なのである。

 “To live is to choose, but to choose well you must know who you are and what you stand for, where you want to go and why you want to get there.”
(生きることは選択することだ。しかし、良い選択をするためには自分自身が何者か、何を代表しているのか、何処へ行きたいのか、そして何のためにそこに行きたいのかを知らねばならない)

   

2014年10月9日木曜日

Snatch


 ロンドンが舞台のtrainspotting × タランティーノ作品な映画。

 気持ちがいいほど悪趣味な暴力シーン、トランクの中から覗く人間を見上げるカメラワーク、冒頭の無駄な御喋りなど、オマージュと思しきタランティーノ作品の味わい。悪役になりきれない狂言回しの主人公や映像と音楽のセンスがtrainspottingに被る。筋は大粒のダイヤモンドを巡って伏線が絡み合うクライムもの。派手なバイオレンスと本物の悪の思惑が交錯する。スタイリッシュな編集でサクサク進む。

 放浪民(パイキー)の野生児ブラッド・ピットが格好いい。
 サクッと観られる暴力と犯罪の娯楽映画。

2014年10月8日水曜日

火星年代記


 火星を舞台に生きる様々な人々が描かれた小品を並べた連作集。改訂版では2030年~2050年代の年代記になっている。(改定前は1999年からスタート)

 前書きで作者も語っているが、インスピレーションの導くままに書いたぶつ切りの作品を並べると、意想外に整合性のある不思議な年代記ができた、という感じ。最初は若干混乱するが、読み続けると幻想的で示唆に富んだ物語世界に引き込まれていき、読後感はなかなかいい。

 個人的にベストに挙げるほどではないが、SFの巨匠レイ・ブラッドベリの代表作ということで、読んでおいて損はない作品だと思う。神話のように不条理で、古典的名作のオーラがある。筆者個人としてはフィリップ・K・ディックカート・ヴォネガットの方が好き。
   

リバー・ランズ・スルー・イット


 1920年頃のアメリカのロッキー山脈の麓に住む兄弟の物語。威厳と賢明さを持つキリスト教牧師の父、凡庸だが愛嬌のある母、勤勉で不器用な兄、才気溢れる自由人の弟からなる家族が、モンタナ州の雄大な自然と共に育ち、成長していく話。

 主役の若きブラッド・ピットの姿に見惚れるべき作品だが、ブロークバックマウンテンから同性愛の要素を取り除いたような感じで生々しさはほとんどない。川がせせらぐ山奥の空気を感じ、観ていて爽やかな気持ちになる。

 フライフィッシングがしたくなる。いい時代のアメリカの映画。