2013年4月30日火曜日

アラサーちゃん


 ここ最近読んだ中で、最も人の心の勉強になった本。

 SPA!に連載中の元AV女優のエッセイ漫画。

 異性にモテようとする営為は、自意識を映す鏡なのである。
  

2013年4月29日月曜日

タイタンの妖女


 カート・ヴォネガットが気合いを入れて取り組んだと思しき作品。村上春樹やradioheadの世界観の源流にあるのはこういう感性らしい。風刺が効いてて、ユーモラスで、時には残酷にさえ映る冷淡。幻想的で、不条理で、作者の明確な意図は示されず、読む者が意味を考える。

 火星への航行中に時間等曲率漏斗(クロノ・シンクラスティック・インファンディブラム)に飛び込み、太陽系のあらゆる時空間に遍在する存在になってしまったウインストン・ナイルズ・ラムファード。美貌と強運を持って生まれた俗物である全米一の大富豪マラカイ・コンスタント。彼らは運命に翻弄され、舞台は地球のラムファード邸から火星、水星、土星へと移動していく。

 読んでいて小説って自由なんだと思い知らされる。読者を突き放し、展開は思わぬ方向に進み、訳も分からぬまま宇宙の中を引っ張り回される。物語の意味を作者は一言では教えてくれない。困惑したまま読み進み、最後の解説まで読んで、頭の中で反芻して、ようやく意味が分かる。より大きなものに人は操られている、という運命に対する諦観の書である。
   

2013年4月26日金曜日

SLAM DUNK


 言わずと知れたバスケ漫画の金字塔。久しぶりに読み返してみて、また感動してしまったので、何が良かったのかを考えてみる。

①愛がある
 とりあえず登場人物にイヤな奴がいない。豊玉の南や岸本さえ、バスケを愛するがゆえに堕ちてしまったのであり、結局はまたバスケに救われる。多分一番イヤな奴である三浦台の村雨(板倉やテルオという説も)でさえコミカルだ。桜木、赤木、流川、三井、宮城、安西先生、晴子、彩子、陵南、翔陽、海南、豊玉、山王…etc. 皆バスケが好きで、繋がっているのだ。

②成長を追体験できる
 素人の桜木がガムシャラに強豪達に挑む中で、目に見えて成長していく。恵まれた体格と身体能力を活かして、リバウンドに開花し、大事な所でダンクをかます。庶民シュート、ゴール下、ジャンプショットと技が増えていくのがいい。桜木だけでなく、流川も赤木も牧も魚住も河田兄も沢北も、皆努力している。

③化学反応
 湘北のスタメンの5人は勿論、対戦相手や周囲とのやりとりを通して化学反応が生まれ、戦局は変化していく。バスケットボールという題材自体が生む必然であり、人間同士の相互作用が生み出すマジックを読者は堪能できる。

④いい台詞が多い
「天才ですから」「全国制覇」「諦めたらそこで試合終了ですよ」「バスケがしたいです」「まずは日本一の高校生になりなさい」など、数え上げたらキリがない。大志を抱くことの大切さと、挑み続けるための楽観を生み出す思考様式。そういうTIPSが詰まってる。そこには説教臭さや、押し付けがましさはない。シンプルで、愛があり、自ずから口に出てきた、必然的な心情の発露なのである。
 

 で、結局、何がいいんだろうか?
 大志を抱き、ひたむきに勝利を目指す、その全ての過程が、醍醐味や魅力が、詰まっているからではないか。giant killing=弱小チームが強豪チームを破っていく快進撃が生み出すカタルシスは他の多くの娯楽作品に共通している。最後の山王戦の感動は、挑戦の気概、逆境の克服、チームプレイのダイナミズム、そういうものが凝縮され、純粋な形で味わえる。底に流れる作者のバスケットボールへの深い愛によって、読む者の心にジワリと染み込む。

 そして、主人公の能力にリバウンドを選んだのは、ワンピースの作者が主人公にゴムの能力を与えたのと同じくらい重要な点だと思う。リバウンドとは「逆境を克服する力=レジリエンス」の象徴である。劣勢を盛り返す起点であり、失敗しても再挑戦するためのチャンスを生み出す瞬間である。そんな気がする。
  

2013年4月21日日曜日

pink


 痛みと、その鎮痛の物語。

 80年代のバブルの時代の東京。ホテトル嬢(デリヘル嬢)のユミは昼間はOL、夜は体を売って収入を得て暮らしている。マンションでワニを飼い、美味しいものを食べ、服や雑貨など欲しい物を買い、気ままに生きている。

 作者がつけたキャッチコピーは「愛と資本主義の物語」。
 性的放埒と浪費傾向、その根底にあるのは鎮痛を求める心性。
 家族が壊れ、帰る場所を失い、それでも生きていくために。
 ハッピーな気持ちでいるうちは、死にたくならなくて済む。
 刹那的な快楽への志向は、痛みをかき消すための脳内麻薬を必要とするゆえの必然である。
 悲愴感が無いのが、いっそう哀しい。

 今まで読んだ岡崎京子作品ではこれが一番。
  

2013年4月13日土曜日

GO(小説)



「いつか、俺が国境線を消してやるよ」 

・・・


 自分にとってかなり思い入れのある1冊。

 大学1年生の夏、かなり本格的に友達がいなかった。彼女もいなく、金もなく、かなり頑張って突破した受験のあとに待っていたクソみたいに孤独で退屈で残念な日々に、心の底から萎えていた。

 そんな夏のある日、昔からの知り合いに薦められて読んだこの本。
 金がなかったからブックオフあたりで偶然見つけたのを買った気がする。
 
 在日朝鮮人の男子高校生が恋をする話。
 主人公の杉原は国籍の違いが生む微妙な立ち位置に苛立ち、ウンザリして、己のアイデンティティを探して、戦い、暴れ、考え続ける。巨大な体制に押しつぶされないよう強くなるために、本を読み、勉強し、音楽を聴き、映画を観て、体を鍛え、喧嘩して、恋をする。

 権利ばかりを主張するさもしい乞食根性やいじけた被害者意識はなく、あるのは不条理な社会に対する健全な怒りと、生きる歓びを享受しようとする若い魂が生み出す疾走感。ページを繰る手を止めさせない書き手=ページターナーを目指しているという金城一紀の面目躍如。だいたい誰に勧めても最高に面白いという返事が返ってくる。

 たぶん、大学生活に倦み、心が萎んでいた自分を変えてくれたのはこの1冊だった。

 読むと生きる力が湧いてくる。
 自分が小説を書くなら、こういう話をぜひ書きたいと思っている。
 荒削りで、真剣に無茶苦茶やってる、生きる気力に満ちた若造の快進撃。

 久しぶりに本棚から取り出して本を開くと、思わず引き込まれ、腰を据えて読み返してしまった。この先も何度となく読み返す気がする。

 映画も全盛期の窪塚洋介が最高に格好いい。
    

2013年4月6日土曜日

猫のゆりかご



 原子爆弾の開発者が作り出した世界を滅亡させる化学物質アイス・ナインを巡る人々の物語。
 ナンセンスギャグと皮肉が散りばめられ、ぶつ切りの断章で物語は進む。

 暴走する科学へのアンチテーゼとして登場する異教「ボコノン教」の教義は、人間の善性を生み出すのは滑稽な嘘であると教えている。

 猫のゆりかご(cat's cradle)はあやとりのこと。
 科学も、宗教も、世界の枠組みを説明するための体系の一つで。
 因縁の糸が組み合わさって出来る模様こそが、破局であれ、喜劇であれ、この世界で起きる全ての現象の本質なのである。